アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
954号

★チ リ
  世界最大の銅鉱山でストライキ

 チリ北部のアタカマ砂漠にあるエスコンディーダ鉱山の約2千500人の労働者が、雇用の安定、賃金・年金の引き上げを要求して2月9日、午前8時からストライキに入った。


 同鉱山は世界最大の銅鉱山であり、15年には全世界の生産量の約6%を生産している。このストライキは全世界の銅供給に大きな影響を及ぼす。

 同鉱山の最大株主はBHPビリトン社で、リオティント社や三菱商事等が少数株主。


 組合は7%の賃上げを要求し、政府の仲裁の下で交渉が行われてきたが、決裂した。
 通常は毎朝1200人の労働者がバスで出勤するが、この日は1人も姿を見せなかった。労働者たちは長期のストライキを想定し、鉱山の外でキャンプを張り、60日分の食糧等を準備し、39万ドルの闘争資金を確保している。


 夜勤を終えて出てきたホセ・アルカイノさんは、「もし誰かが突然やってきて、台所の冷蔵庫を持ち去ったとしたら、それを腕組みしながら眺めているだろうか? ここで起こっているのはそういうことなんだ。彼らはわれわれの賃金や給付を奪い、もっと働けと言っているのだ」と語った。
 労働者たちはまた、アントファガスタ市に近いコロスコ港(銅の積出港)に入る道路を封鎖した。


 チリ最大の労働組合の1つであるエスコンディーダ第一鉱山労組は1月31日に、組合の要求への会社側回答を拒否し、ストライキで闘うことを圧倒的多数の賛成で決定した。
 組合代表のカルロス・アジェンデ氏によると、「組合員は会社側の最終回答に怒っている。それは労働者の要求とはほど遠いだけでなく、労働者が前回の協約交渉で勝ち取った15の重要な手当てを奪い取ろうとしている。彼らはなぜわれわれにストライキを強いるのか? それは彼らが投資家の要求に応えなければならないからだ。彼らは(ストライキによって)15万トン以上を失うだろう」


 前回の協約交渉(4年前)では、労働者は2週間のストライキの結果、大幅賃上げとボーナスを勝ち取っている(背景として、当時の銅の国際価格の上昇がある)。
 16年の第1四半期にエスコンディーダ鉱山の利益は減少したが、それでも14億ドルの売り上げがあり、2億6500万ドルの利益を上げている。
 チリの鉱山では、この10年間に労働者の数は2倍になっているが、労働条件は悪化しており、また経営者のスキャンダルが相次いでいる。

 

(「テルスール」2月1日付、「ロイター」2月9日付等より)

 

★バングラディシュ
  衣料組合への弾圧が拡大

 バングラデシュで昨年12月の賃上げ要求スト以降、衣料産業の労働組合に対する弾圧が続いている(本誌2月1日号参照)。

 

 2月10日にはチッタゴンで、インダストリオールに加盟している独立衣料労働組合連合(IGWUF)の事務所に警察官が立入り、組合リーダー9人を連行した。同13日に全員が保釈になったが、容疑は取り下げられていない。
 前週にはガジプールで、インダストリオールに加盟しているバングラデシュ革命的衣料労働者連合(BRGWF)の役員たちが4時間に及ぶ尋問を受け、その後、警察の介入を避けるため活動停止を余儀なくされている。


 12月以降、少なくとも26人の組合リーダーおよび組合員が逮捕され、今も拘留されている。組合事務所への侵入、破壊、書類や機器の強奪が続いている。多くのリーダーは逮捕を逃れるために身を隠している。


 ラナプラザ・ビルの倒壊から4年近くが経過し、安全協定(アコード)を通じて防火やビルの安全の面で改善が進んているが、労働法や国際労働基準の遵守などの面では政府の取り組みはあまりにも貧弱である。 (インダストリオールのウェブより)
 インダストリオールの呼びかけに応えて、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)、クリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)を始めとする22の国際人権団体や労働権擁護団体が、アパレル産業の有力ブランド60社に対して、拘留されているすべての組合リーダー・組合員の釈放と1500人の被解雇者復職のために政府に働きかけるよう申し入れた。CCCは声明で「バングラデシュの政府と衣料産業の経営者は賃上げストを労働組合弾圧の口実に利用しようとしている」と指摘している。


 別の動きとして、米国アパレル・フットウェア協会は1月23日にこの問題に関連してバングラデシュの首相に、労働者の団結権の擁護と、多くの紛争の原因となっている賃金水準についてすべての関係者が参加する定期的で透明な検討のメカニズムの確立を求める書簡を送った。

 H&M、GAP、プライマークなど20の小売チェーンが1月11日に首相に対して新しい賃金委員会の設置を求める書簡を送っている。

 

(「ザ・デイリー・スター」紙1月27日付より)

 

★トルコ
  非常事態下のパージで復職を要求

 トルコでは昨年7月のクーデター失敗の後、非常事態宣言の下で、クーデターに関与したとされる軍人、警察官のほか、組合活動家やクルド労働党(PKK)支持者とみなされた公務員が大量に解雇された(本誌16年8月15日・9月1日合併号を参照)。すでに12万5千人の公務員が解雇され、4万人近くが逮捕されている(軍人・警察官を含む)。


 12月22日にイスタンブールで、被解雇者200人とトルコ公務員労組連合(KESK)の組合員が復職を求める行進(首都アンカラまでの450キロ)の出発集会を開催した。前日に予定されていた集会は警察の催涙ガスを使った弾圧によって開催できなかった。
 行進はイズミットでも警察によって妨害された。参加者たちは行進の継続を断念し、バスでアンカラへ移動し、同24日にアンカラでデモを行った。


 被解雇者の1人であるセルマ・アタビーさんはトルコ南東部のディアルバクル県で22年間看護師として働いてきたが、10月末に政府の布告によって突然解雇された。

 「私は家と車を売るしかありませんでした。社会保障も失いました。息子が高校入試の準備中なのに、ストレスの影響が心配です」と彼女は語った。彼女はKESK加盟の保健・社会サービス労組(SES)ディアルバクル支部の共同委員長である。
 アタビーさんによると、「私たちは権利のために闘っているだけなのに、彼らは私たちをテロリストだと非難します。私はこれまでどんな理由でも取り調べを受けたことはありません。ところが政府の布告は私や他の仲間たちが『国家安全評議会がテロリストとみなす組織のメンバーまたは関係者』であると決めつけ解雇したのです」。

 ムスタファ・ユルツェバーさんと彼の妻はトルコ南東部のバトマン県の県立病院で勤務していたが、2人とも11月22日の政令によって解雇された。彼はSESのバトマン支部の委員長である。ユルツェバーさんによると、私立病院や他の民間企業の経営者には解雇された公務員を雇用しないように圧力がかかっている。


 公正発展党(AKP)政権による労働者に対するパージは今回が初めてではない。彼らは頻繁(ひんぱん)に労働者のストに介入し、デモに参加した組合リーダーを訴追してきた。その結果、組合組織率は02年にAKPが政権に就いた時には約25.1%だったが、13年時点では6.3%に下がっている。

(「イコール・タイムズ」紙16年12月30日付より)

 

 4月15日の憲法改定(大統領権限の強化)の国民投票を前に、憲法改定に批判的な組合リーダーに対する襲撃・脅迫が相次いでいる。
 2月11日にトルコ政府職員労組(TBS)のファフレティン・ヨクス委員長がアンカラで狙撃された。同委員長は難を逃れたが、運転手が足に銃弾を受けて病院へ運ばれた。

(「ターキッシュ・マイニュート」紙2月12日付)

 

★ブラジル
  警察官ストで連邦軍を派遣

 ブラジル南東部のエスピリトサント州で警察官が43%の賃上げを要求して2月4日からストライキに入った。


 同州は深刻な財政危機の中で基本的な公共サービスが危機に陥っている。ストライキが始まってから1週間の間に、同州では強盗、傷害などの事件が多発し、137人が殺害されている(主にギャング同士の抗争)。これは通常の4ヵ月間に相当する数である。警察官のストライキは隣接するリオデジャネイロにも波及しつつある。


 連邦政府は同8日までに連邦軍兵士1200人を派遣し、さらに増派を検討している。同9日には交通労組のリーダーの他殺死体が発見され、付近の学校・病院や企業の多くが休業に入っている。


 州政府は700人余の警察官を反乱罪(最高刑は20年)で訴追すると発表し、また、組合との交渉が妥結し、警察官は同11日から仕事に戻ると発表したが、多くの警察官は組合が自分たちを代表しておらず、スト中止は承認されていないとして、ストライキを継続している。

 

(「ブラジル」紙2月11日付、「テレスール」等より)

 

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