アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
965号

★ジンバブエ
  ムガベ辞任、旧体制は存続、経済特区は一層の搾取をもたらす

 ジンバブエでは2017年11月21日にムガベ大統領が辞任し、同24日、ムナンガグワ前副大統領が暫定大統領に就任した。
 当初の歓喜の後、人々はムガベ後のジンバブエはどうなるのかを問い始めている。特に長年にわたる経済危機に苦しんできた労働者にとって、これは重要な問題である。
 構造調整政策、農地改革をめぐる大混乱、ハイパーインフレによってこの国の経済は2000年代末には完全な崩壊に陥った。現在ジンバブエにおける失業率は世界最高水準であり、米国AFL・CIOの国際支援機関「ソリダリティー・センター」によると就労人口の94・5%がインフォーマル・セクターで働いている。


 ムナンガグワは就任演説の中で「経済を発展させ、雇用を増やす」ための努力を約束したが、ジンバブエ労働組合会議(ZCTU)のジャフェット・モヨ書記長は「われわれはそれほど期待していない。なぜならムガベはシステムの頂点にいたのであり、システムはそのまま残るだろうからだ」と語っている。
 労働組合にとってムナンガグワは05年の労働法改定の責任者であり、この改定によって公共部門の労働者は団体交渉権を失い、その結果として低賃金と大量解雇、さらには最近では賃金の不払いに直面してきた。
 ZCTUの前書記長のウェリントン・チベベ氏(のちにITUC書記次長、現在はILOのタンザニア・ブルンジ・ケニア・ルワンダ・ウガンダ事務所長)は、「ムナンガグワは雇用の創出について語ったが、ディーセントワーク(まともな仕事)について何も語っていない」と指摘している。

 「私の懸念は、ムナンガグワが経済特区の設立を強調したことによって一層深まった。多くの国で経済特区は奴隷労働や奴隷賃金を常態化してきた」と彼は言う。


 ムガベの辞任発表の後、ZTUCはこの「遅すぎた辞任」を歓迎し、新大統領に総合的な移行メカニズムの確立と政権からの「泥棒と徒党」の一掃を求める声明を発表した。
 18年9月以前に総選挙を実施するという暫定政権側の発表に関連して、モヨ氏は「数十年にわたる独裁支配の後、市民の問に帰属感を植え付ける必要があり、それは人々が自分たちのリーダーを選べるようにすることによってのみ実現される。広範な人々による暫定機関が、限定された期間内に自由で公正な選挙を準備しなければならない」と述べている。


 しかし、政治的変化が労働組合運動の再活性化をもたらす可能性についてはまだわからない。ZTUCは1990年代以降、組合員数が4分の1になった。企業が従業員の給料から組合費を天引きしながらそれを組合に渡さないケースもあり、組合財政を圧迫している。

 依然として反労働者的政策を進めてきた旧体制が継続しており、その頂点に立っているのは企業寄りの人々であり、ムガベよりも悪質であるかも知れない。

 外国資本が戻って来なければ雇用も増えず、組合の活性化は難しいという事情もある。また、国外に離散したジンバブエ人労働者がどうなるかが、この国の将来にとって決定的となるだろう。

 この10年間に経済的困難によって約400万人の労働者(全人口の3分の1)が南アフリカ、ボツワナ、英国、カナダ、米国、オーストラリアなどへ移住した。これらの人々は国内の変化への確かな兆候が感じられない限り、簡単には戻れないだろう。

(「イコールタイムズ」12月5日付より)

 

★イタリア/ドイツ/英国
  アマゾンで初のストライキ

 2017年11月24日、アマゾンのイタリアの配送センターで500人の労働者がストライキに入った。イタリアで初めてのアマゾンでのストライキである。ドイツでも同日、アマゾンの6つの倉庫でストライキが行われた。


 イタリア北部のピアチェンツァの配送センターは、アマゾンが2010年にイタリア向けのウェブサイトを開設した時に最初に設立されたもので、常時約1600人が雇用されている。
 ドイツではVerdi(サービス労組)が賃金および労働条件をめぐる長期にわたる闘争の一環として、同日、6つの倉庫でストライキに入った。Verdiの執行委員のステファニー・ニュッツェンベルジュ氏は「世界最大のオンライン小売店はこの日、記録的な売り上げを期待しているが、その従業員はこの日だけではなく毎日、記録的な生産性を求められている。すべてがアマゾンの思い通りに動くためにである」と語っている。

(「ロイター」11月23日付)


 英国の「サンデー・ミラー」紙のアラン・セルビー記者はエセックス州ティルベリーにあるアマゾンの倉庫に5週間、労働者として潜入して取材した。
 ここはアマゾンのヨーロッパ最大の梱包施設であり、年間に120万種類の品目が出荷されている。
 アマゾンはクリスマス商戦向けのコマーシャルで倉庫の労働者が誇らしげに、マイペースで働いている様子を流しているが、現実はそうではない。
 セルビーは出荷品の梱包の仕事を割り当てられた。彼の前には画面が据え付けられており、1時間当たりのノルマと実際の作業量が表示される。ノルマは1時間に300個、これを何時間も続ける。ロボットのようだと彼は言う。監視カメラが労働者のすべての動きを見張っている。彼は隠しカメラを身に着けている。これもアマゾンで買ったカメラだ。立ったまま居眠りしている労働者もいる。週55時間の重労働でクタクタになっているのだ。
 ノルマを達成できない労働者はクビになる。過労のために救急車で運ばれる労働者を見かけることも頻繁である。2万4千人が働いている。1個あたりの賃金は非常に安い。時間通りに出勤できるように、橋の下にテントを張って寝ている者もいる。トイレの時間まで記録されている。広大な倉庫で、近くのトイレまで歩いて5分もかかる。

 アマゾンは労働者が精神的にも身体的にも健康を脅かされているという専門家からの警告に対応して改善を約束したが、労働者からの苦情を聞くために設置されたホワイトボードを見る限り、改善は見られない。アマゾンの高収益はこのような過酷な労働条件によってもたらされているのだ。

(「Inquisitr」11月26日付より)

 

 

ドイツ
  シーメンスが6900人の人員削減を発表

 ヨーロッパ最大の製造企業シーメンス(本社、ミュンヘン)は2017年11月16日、今後数年間に6900人のレイオフを実施すると発表した。これは同社の全世界の従業員の2%にあたり、レイオフ対象の半数はドイツ国内の工場である。


 同社の発表によると、今回の人員削減は主に電力・ガス部門で、ドイツ国内ではゲルリッツ、ライプチヒなどの製造拠点を閉鎖する。再生可能エネルギーの急速な普及と低コスト化に伴って、同社のガス・タービンなどの需要が急減しているためである。今後、出力が100メガワット以上の大型タービンの全世界の需要が年110基程度まで縮小することが予想されるが、全世界の生産能力は約400基である。

 同社は9つの部門から成る複合企業であり、16年にグループ全体の純利益は11%増の62億ユーロとなっている。

  また、同社は高収益の医療部門(資産400億ユーロ)をフランクフルト証券取引所に上場することを計画している。これはドイツ史上最大の新規株式公開となる。
 好調な業績の中での大規模な人員削減計画に対して労働者たちの怒りは増大している。


 IGメタル(金属労組)は人員削減に反対してストライキなどの行動を計画している。700人のレイオフが計画されているオッフェンバッハなどいくつかの地域では、すでに労働組合による反対運動が始まっている。
 IGメタルはドイッ最大の労働組合で、製造業ではヨーロッパ最大の労働組合である。ドイツでは労使関係は協調的であり、大規模なストライキは稀である。シーメンスでは2010年以来、経営上の理由による解雇はIGメタルおよび労働者評議会による同意が必要とされてきたが、今回の人員削減については労使間の合意に至っておらず、会社側が一方的に発表した。
 IGメタル・バイエルン州本部のユルゲン・ケルナー代表は「シーメンスは総合的なテクノロジー・グループとして留まりたいのか、それとも株主を喜ばせることに専念するのか、よく考えるべきだ。……人員削減計画は従業員に対する大がかりな攻撃だ。会社の全体的な経営状態から考えて、このような大規模な人員削減は全く受け入れられない」と語っている。


 シーメンスは13年にも約1万5千人の人員削減を行っており(ドイッ政府の脱原発政策等に対応するため)、また家電、通信、太陽光発電などの部門を廃止または売却してきた。
 閉鎖が予定されている3つの製造拠点が旧東ドイツの州にあり、失業と社会矛盾の一層の深刻化と(その結果として)極右の影響力の拡大をもたらす可能性があることから、ブリギッテ・ツィプリーズ経済相はシーメンスに計画の見直しを求めてきた。

(「DW」紙11月16日付、ウェブ紙「Iibcom.org」12月2日付より)

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