アジア@世界              喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
984号

★グローバル:公共サービス抜きのベーシック・インカムは新自由主義の楽園だ

 PSI(国際公務労連)はユニバーサル・ベーシック・インカム(一律基本所得)制度の試験的導入の14例についての詳細な調査に基づいて、今年4月に「ユニバーサル・ベーシック・インカム―労働組合の観点から」と題するレポートを発表した。

 以下はPSIのババネリ・ローザ書記長による同レポートの概要である(ウェブ紙「イコール・タイムズ」6月21日付に掲載)。

 

 ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)はハイテク富豪から社会主義のリーダーまで広範な政治傾向の多くの人々の想像力を捕えている。

 この仕組みはすべての人々にその所得や就労状態に関わりなく、生活するために十分な現金を定期的に支払うというものであり、社会の安定を維持し、まともな生活水準を確保するためのカギとなる政策のーつとしてますます積極的に提案されるようになっている。

 

 しかし、労働運動に関わっている多くの人々はこの話題にどのようにアプローチすべきか迷ってきた。そのため、PSIは新経済基金(NEF)と協力してこの問題に関する労働の観点からの詳細な分析を行ってきた。

 インドからアラスカまで14件の試験的導入例に関して調査した結果、UBIの試験的導入は仕事と福祉の本質について貴重な洞察を提供したとは言え、今の時代の中心的課題である不平等、富の再分配、不安定な仕事、そしてデジタル化に対処する上でUBIが最良の手段であると示唆する根拠はほとんどないことがわかった。

 

 調査で実証されたのは、最貧層の人々に現金を給付することは彼ら・彼女らの生活を改善に役立ち、多くの右派政治家が言うような無駄な支出や怠惰を助長することはなかったということである。これは現在の社会福祉制度が徹底的な見直しを必要としているという議論に重要な論拠を与える。貧困層の人々に対する懲罰的な求職活動審査や厄介者扱いはやめなければならない。

 

 しかし、政府の支出は選択の問題であることが避けられず、より充実した普遍的で良質な公共サービスに支出することと比べると、UBIは太刀打ちできない。

 シングルマザーが高騰する住宅市場の中で生活を維持できるように現金を給付することは、良質の公営住宅を提供することほど効果的ではない。人々が自分の車のガソリンを満タンにできるように現金を給付することは、無料の公共交通機関を提供するほど進歩的ではない。

 

 UBIについて言えば、一律でしかも十分な給付というモデルはあまりにも大きなコストがかかり、小さなコストで実現できるモデルは一律でしかも十分というわけにはいかない。

 国際労働機関(ILO)の推定によると、UBIのコストは世界平均でGDPの32・7パーセントとなる。現在の世界平均の政府支出はGDPの33・5パーセントである。

 

 より充実した公共サービス

 

 私たちが公的歳入を劇的に増やすことができるまで―まさに大富豪たちがいかなる手段を使ってでも阻止しようとしていることだ―、いかなるUBIのプログラムも教育、医療、インフラをはじめとする重要な公共サービスの大幅削減を伴わざるをえないことは明らかである。

 UBI運動に関わっている人の多くはUBIの導入によってもたらされる行政コストの削減とコスト発生を予防できるメリットを指摘しているが、それでも公共医療、教育、インフラに多額の支出が必要であることを考えると、そのような削減効果だけでUBIのための資金を十分に確保できるという根拠は薄弱である。

 

 現実には、医療や教育などの公共サービスを無償で提供することが不平等との闘いの最強の武器のーつである。
 それらは社会のすべての人に恩恵をもたらすが、最貧層の人々が最も大きな恩恵を受ける。
 また、UBIは政治的真空の中に存在するわけではない。この制度が一旦導入されると、「これで国家の役割は大半が満たされる」と主張する者が出てくるだろう。そうなると消費者としての市民は開放された市場で商品化されたサービスを購入できる。

 

 UBIの最も有名な支持者の多くがシリコンバレーのハイテク富豪である―マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック社の会長)やイーロン・マスク(テスラ社の会長)など―のは驚くことではない。彼らはオートメーション化の結果として近い将来にUBIの導入が不可欠になると主張している。

 しかし技術の進歩と不平等は人間による管理が及ばないことではない。不安定な仕事が増えること(しばしば「ウーバー化」と呼ばれる)は、多くの場合、ウーバーのような企業が労働関連のルールを無視していることの結果であって、新技術の発展が主要な原因ではない。

 この点で、UBIは規制緩和と搾取に対する解決策ではなくそれへの追随とみなされる可能性がある。

 

 UBIの多くの支持者たちは非常に重要な論点を提起しており、それらを無視するべきではない。

 私たちは福祉の給付に際しての懲罰的な制度を廃止する必要がある。ハイテク富豪や超金持ちたちがタックスヘイブンに資産を隠すのを防ぐ必要がある。

 私たちは権力、富、そして資源を再分配する必要がある。

 

 しかし公共サービス抜きのUBIは新自由主義の楽園である。

 私たちが不平等と闘うために必要な巨額の追加的財源を確保するという政治的意志を形成することに成功した時、公共医療、交通、住宅、教育への支出が私たちの最優先事項となることは間違いない。
 無償の、一律でしかも良質な公共サービスは、そのために闘争する価値があるラディカルな要求である。

 UBI運動を支持している進歩的な人々に呼びかける。まずこの闘争に勝利しよう。

 

 

★台 湾:エバー航空客室乗務員が17日間のストライキ

 エバー航空の客室乗務員4千人(全員女性)のうち約2300人が6月20日から労働条件の改善等を求めてストライキに入った。このストライキにより合計12OO便が欠航となり、会社側の損失は9700万米ドルとなった。

 

 6月28日に労働者たちは経営側との会談の後で、要求を大幅に譲歩することに同意した。そうすることによってストライキ終結への道が開かれると考えたからである。しかし、会社側がスト参加者への報復を行わないという条件に同意することを拒否したため、ストライキは継続された。


 7月6日に労使の合意が成立し、ストライキは終結した。組合は乗務手当の増額と、スト参加への報復措置を取らないことを条件に、今後3年間ストライキを行わないことに同意した(「AFP」7月9日付)。
 以下は6月28日にスト終結のための交渉が不調に終わった後、桃園客室乗務員組合が発表した国際連帯の呼びかけ(6月29日付、抄訳)である。

 

 エバー航空は台湾を拠点とする海運大手エバーグリーン・グループの一員であり、長年にわたりスカイトラックスの「世界の五つ星航空会社」として評価されてきましたが、客室乗務員のストライキの中で、台湾で最も醜悪な組合攻撃を行っている企業のーつであることが明らかになりました。

 同社は従業員が組合に加盟して自分たちの権利を守ることを阻止するために、惜しみなく資金を投入してフェイクニュースの流布、法律を悪用した嫌がらせ、怪しげな政治的取引などあらゆる手段を動員してきました。

 

 エバー航空は台湾で戒厳令が解除された直後の1989年に設立されましたが、その管理スタイルは軍隊的で、家父長主義のままです。

 たとえば、同社は現在でも男性の客室乗務員を雇用することを拒否しています。求職者は常に「あなたを代表する労働組合が必要だと思いますか」と質問され、「はい」と答えるとドアの方を指差されます。
 客室乗務員の不満は、日常的なハラスメントから慢性的な疲労、その他の労働安全衛生、飛行安全性の問題までさまざまです。そのため、台湾を拠点とするもうーつの航空会社であるチャイナエアーの客室乗務員が桃園客室乗務員組合の下で2016年に最初のストライキに成功したとき、エバー航空の客室乗務員の圧倒的多数が組合への加盟を選択しました。

 

 経営者との間の2年にわたる厳しい交渉の後、同組合は今年初めに仲裁を申し立て、労働法に従って5月にストライキ投票を開始しました。3千人余の組合員のうち2900人以上が賛成の投票をしました。ストライキは6月20日に始まりました。……

 

 6月28日の交渉での会社側の回答はストライキが始まる前に提示していた回答より少し改善されていただけだったが、組合側はストへの報復を行わないという確約を条件に協約を締結することに同意しました。

 しかし、同29日に会社側は組合側との交渉に、権限のない中間管理職と弁護士を出席させ、10分で会談を中断し、会社の規則に違反した従業員は「適切な処罰」の対象となると主張する長文のプレスリリースを発表しました。
 組合員たちはようやく、この紛争におけるエバー航空の主要な目的が金銭的な利益を守ることではなく、この会社が30年前に設立されて以来の労働者に対する独断的な支配を守ることだということに気が付きました。……

 私たちは世界中の姉妹や兄弟たちに連帯を呼びかけます。

 

 

 

 

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