アジア@世界
喜多幡 佳秀 ・訳(APWSL日本)
873号

バングラデシュ:衣料労働者が最賃問題で連日数万人のデモ

 9月21日、首都ダッカで5万人の衣料産業労働者が最低賃金の2.5倍以上の引き上げを要求して、これまでで最大規模のデモを行った。
 52の労組が結集する統一衣料労働者連合のナズマ・アクテル委員長は、「私たちはギリギリまで追い詰められている。声を上げない限り、逃げ道はない。要求実現のためには、あらゆることをする。私たちは慈悲の対象ではない。経済は私たちの苦役によって動いているのだ」と訴えた。


 バングラデシュの衣料労働者400万人の賃金は月3千タカ(1タカは約1.25円)で、カンボジアの工場労働者の半分でしかない。労働者の要求は月8千タカへの引き上げだ。工場主たちは先に、20%の賃上げを提案したが、労働者たちは「非人間的で、屈辱的だ」と拒否。
 この日、首都近郊の工業地区で300強の工場の労働者がストに入り、高速道路を封鎖。首都から30キロ北のガジプールでは衣料労働者約1万人が高速道路に向かってデモを行い(この途中でいくつかの工場が破壊されたと報じられている)、その後ダッカでの集会に合流した。


 政府は新しい最低賃金について労働団体および経営団体と協議している。2010年秋に最低賃金が2倍になったが、今回は欧米の価格引き下げ圧力で、賃上げは難しいと経営団体は主張している。(「ロイター」9月21日付)

 

*工場火災・工場倒壊犠牲者への補償が進まず

 

 9月11〜12日、ジュネーブで、昨年12月のタズリーン工場火災と今年4月のラナプラザ・ビル倒壊の当該工場から製品を輸入していた欧米のブランドや小売チェーン中12社と労働組合・市民団体の間で犠牲者への補償に関する会合が開かれた。この会合はインダストリオール、UNIなどの労働組合とクリーン・クローズ・キャンペーンなどの市民団体からの要求により、ILOが仲介。他の多くの企業(ウォルマート、ベネトンなど17社)は出席を拒否した。
 労働組合・市民団体提案の補償モデルでは、ラナプラザの死傷者への補償総額7400万ドル中、欧米ブランドが3300万ドルの拠出を、タズリーン工場は補償総額が640万ドルで、欧米ブランドに390万ドルの拠出が求められている。
 会合では、基金を設立、それを全関係者合意の下で設立される委員会が管理という方式が提案された。労働組合・市民団体はこの提案を支持したが、企業側は協議継続の約束だけで終わった(2週間後の再会合は合意された)。


 英国・アイルランドの小売チェーンのプライマークはラナプラザの倒壊後に緊急の救援として、すべての被災者・家族に賃金の3ヵ月分相当を支払い、現地に緊急時の融資体制を確立した。しかし、他のブランドや小売店は具体的な措置を実施していない。
 インダストリオール・バングラデシュ評議会のカムルル・アナンさんは、プライマークの対応を評価、他のブランドにも同様の措置を求めている。アナンさんは、「被災者は食料、医薬品、住宅にも困っている。持続的な解決策には時間がかかるが、救援の支払いはすぐ必要だ」と訴える。タズリーン工場については、フランスのC&Aが補償計画を発表、ドイツのカールリーカーが補償に同意している。
 インダストリオールのモニカ・ケンペル書記次長は、「(ジュネーブでの会合に)欠席したブランドが、タズリーンやラナプラザで防げたはずの事故により命を奪われた労働者の苦しみに対して無関心であることは大きなショックだ。欧米系多国籍企業は、売り上げの極一部を補償にあてることを回避するため、空約束や露骨なウソを繰り返してきた」。

 

(「ハフィントン・ポスト」9月27日付より)

 

ギリシャ:公務員への新たな攻撃に48時間スト

 9月24日、公務員労組ADEDYは政府による数千人の公務員を解雇する計画に反対して48時間ストに入った。9月18〜19日に続いて1週間で2回目である。


 EU・IMF・欧州銀行のトロイカによる新たな融資の条件を満たすため、政府は公務員60万人に対して新たな攻撃を開始している。
 ギリシャの公務員は浪費と腐敗の温床であるとして、トロイカは公務員改革を進めなければ融資を打ち切ると脅してきた。これに対応して政府は、「流動性計画」と称し、指名した公務員に対して8ヵ月以内に別の部局で、より安い賃金の仕事に就くか解雇かの選択を迫ろうとしている。
 ADEDYはこの計画を「労働者の権利を根絶やしにする最も無慈悲な攻撃」であると非難している。


 行政改革委員会は年末までに、この計画の対象として2万5千人の公務員を指名することを求められている。すでに9月末の目標の1万2500人の選抜を完了している。その多くは教員、学校警備員、市の職員である。
 ADEDYは、緊縮財政政策に反対する広範な闘いと呼応して、この数ヵ月間、闘いを強化してきた。25日にはアテネで、9月18日の極右ネオナチ支持者によるヒップホップ歌手、パブロス・フィッサスさんの殺害に抗議する大規模なデモが計画されており、ADEDYや民間部門の労働組合GSEEも参加を呼びかけている。

(9月24日付「ロイター」、「AFP」等より)

 

カタール:ワールドカップ工事で移住労働者が多数労災死

 英国「ガーディアン」紙9月25日付および26日付(ウェブ版)は、2022年FIFAワールドカップの開催地カタールで関連工事における移住労働者の奴隷的労働条件と多数の労災死について衝撃的なレポートを掲載した。


 同紙がネパール大使館から入手した文書によると、カタールで今年6月4日〜8月8日までの間に、44人以上のネパール人労働者が死亡。その半数が心臓麻痺、心臓疾患、労災事故が原因である。8月には30人の労働者が助けを求めて大使館に逃げ込んだ。また、インド大使館によると、今年1〜5月の間に82人のインド人労働者が死亡し、1460件の相談が寄せられている。


 労働者たちは50度を超える気温の中で、飲料水も与えられないまま働かされ、給料も支払われず、パスポートも取り上げられている。宿舎も1部屋に12人が寝泊まりし、不衛生なため多くの労働者が病気になっている。食料を与えられず、飢えている人たちもいる。
ITUC(国際労働組合総連合)は、この状態が続けば2022年の開幕までに数千人が犠牲になると警告。


 カタールは2022年ワールドカップのために9つの競技場を建設するほか、道路建設に200億ドル、高速鉄道に240億ドルを投じ、合計5万5千室のホテルを建設する予定であり、新空港建設も進んでいる。そのためにネパール、インド、スリランカ等から現在の約100万人に加えて、50万人以上の労働者が来ることが予想されている。
 FIFA理事会は緊急に調査を指示し、翌週にチューリッヒで開催予定の執行委員会でこの問題について検討すると発表した。

 

 

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