アジア@世界              喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
979号

★バングラデシュ:衣料労働者の賃上げ要求に経営側が1万1千人以上解雇

 18年12月以降、全国で衣料労働者の最賃引上げ要求のストライキ・デモが繰り返されている。

 

 12月の賃金支払日に、賃上げが期待した額を大幅に下回っていることに怒った労働者たちがデモを始めた。それに対して警官隊が襲いかかりゴム弾や催涙弾によって1人の労働者が死亡、多数が負傷した。

 1月6日から5万人以上の労働者がストライキに入り、ダッカでは労働者たちが空港へ向かう道路を封鎖し、アシュリア、サバールでも道路を封鎖した数千人の労働者と警官隊が衝突した。

 

 バングラデシュでは16年12月にダッカのアシュリア地区で数万人の労働者が賃上げを要求して1週間以上にわたってストライキに入り、報復弾圧の中で多数の組合リーダーが逮捕され、1600人以上の労働者が解雇された(本誌17年2月1日号参照)。

 この時、政府は賃上げ要求を無視した。

 18年の賃金交渉では、労働者は統一要求として月1万6千タカ(約2万1千円)を要求したが、政府の決定はその半分の8千タカで(12月1日から実施)、しかも賃金等級による格差が大きく、初任給が2700タカ引き上げられる一方、勤続年数の長い労働者の大多数にとって、賃上げ幅はわずか500タカ程度だった。

 

 全国のインダストリオール加盟組合の調整機関となっているインダストリオール・バングラデシュ評議会(IBC)によると、この間の賃上げに関連して1万1600人以上の労働者が解雇されている。特に勤続年数の長い労働者が退職を強要されている。相対的に高い賃金や社会保障費を削減するためである。

 経営者と警察は約3千人の労働者を破壊行為などで告訴しており、すでに約70人が逮捕されている(一部は保釈)。経営者に雇われた暴徒による事件や脅迫も広がっている。

 

 雇用記録に生体認証データがリンクされているため、組合活動に関わって解雇された労働者が新しい就職先を見つけるのは容易ではない。
 IBCのサラウディン・シャボン書記長は次のように述べている。

 「組合活動を無力化するために組合リーダーや役員を狙った逮捕が経営者の暗黙の了解の下で行われている。嫌がらせを直ちにやめるべきだ。経営者と政府は労働者に対するすべてのでっち上げの容疑とすべての不当解雇や停職処分を撤回するべきだ。経営者は政府が発表した賃金をきちんと払うべきだ」

 

 CCCは1月28日からの1週間、同国の衣料産業の最賃引上げと組合弾圧に反対し、ビル安全への国際的取り組みを継続することを求めて、世界各国で同国大使館に対する行動を計画することを呼びかけ、ベルリン、ブリュッセル、ロンドン、ジュネーブ、マドリード、ニューヨーク、ハーグ、ワシントンDCなどでこの呼びかけに応える行動が行われた。

 

(インダストリオールのブログ2月11日付、クリーン・クローズ・キャンペーンのブログ1月28日付など)

 

★ブラジル:ダム決壊事故の公正な調査とヴァーレ社の責任追及を

 1月25日、ブラジル南東部のミナスジェナイス州のブルマジー二鉱山が使用する選鉱屑ダムが決壊し、多くの死者・行方不明者が出た。

 

 英国「ガーディアン」紙2月6日付によると、鉱山を所有しているヴァーレ社(ブラジル企業)はダムの検査が定期的に実施されており、直近では1月22日に実施され、「安定した状態にある」という証明書を受領していると説明している。検査を実施したのはドイツのテュフズード社である。

 事故の4日後に警察はヴァーレ社の従業員3人とテユフズード社の技術者2人を逮捕したが、高裁が同日に釈放を命じた。
 ヴァーレ社の広報担当者は電子メールで「ダムに漏れはなかった」と述べている。

 

 しかし3人の鉱山労働者が同紙記者に、昨年7月ごろにダムの底部近くで水が漏れ、修理が行われたと語っている。別の男性はこの鉱山で働いていた兄(事故で行方不明)が大事故を心配して離職を考えていたと述べている。

 

 フェルナンド・コエロさん(35歳)はこの事故で父(63歳)を亡くした。2人は鉱山でいっしょに働いていた。

 フェルナンドさんによると昨年7月のある夜の10時ごろに彼の父が漏れの現場へ呼び出された。長年の経験でダムと鉱山を熟知しているからである。翌日までに労働者たちが集められ、修理が行われた。その間、この区域は立ち入り禁止となった。

 ダムの安全の専門家は、そのような漏れが見つかったということはダムが安全でないということだったと述べている。

 

 同じ工法で建設された同州のフンダオ・ダムも15年11月に決壊し、19人が死亡、環境に破滅的な被害をもたらした。フンダオ・ダムはヴァーレとBHPビリトンの合弁会社であるサマルコ社が運用していたが同社はわずかな罰金を支払っただけである。

 

 昨年、同州の州議会でジョアオ・ハビエル議員が同州の上流ダムの90%を使用禁止にし、残りのダムにも厳格な規制を適用するための州法を提案したが、鉱山ロビーからの強力な反対のために成立しなかった。

 同議員は「彼らはそのような措置がこの州の鉱業に有害な影響をもたらすと言っているが、実際は逆で、鉱業に有害な影響をもたらすのは環境災害と隣り合わせだということである」と指摘する。

 

 「事故ではなく犯罪だ」

 

 インダストリオールと国際建設林業労働組合(BWI)はヴァーレの責任追及を求める声明を発表した。

 インダストリオールのワルター・サンチェス書記長は次のように述べている。

 「これは事故ではなく犯罪だ。私たちはこの恐ろしい災害の犠牲者を追悼し、被害者に同情を寄せる。ヴァーレの労働者たちが究極の犠牲を払った今、いかなる言い訳もありえない。ヴァーレが労働者たちの声を聞き、安全を改善するための意味のある措置を講じるべき時である。ブラジルの政府当局は選鉱屑ダムの厳格な検査が実施されるまで、それを使用するすべての企業の事業を停止しなければならない」

 

 インダストリオールとBWIはブルマジー二・ダムの決壊の原因についての徹底的な調査を、労働組合の参加の下で実施することを要求する。また選鉱屑ダムの安全、犠牲者に対する迅速かつ公正な補償に関して労働組合および市民社会との協議を即時実施することを要求する。

 

 ヴァーレは世界最大の鉄鉱石採掘企業であるが、15年11月のフンダオ・ダムの崩壊後に発表された国際鉱山金属評議会のガイドラインを無視してきた。また、責任ある鉱業の保証のためのイニシアチブ(IRMA)の選鉱屑ダムの管理に関する基準を守っていなかった。(インダストリオールのウェブー月28日付より)

 

 BWI傘下で、ブラジルのダム建設・保守労働者を代表する組合SITICOPMGは1月26日付で声明を発表し、政府関係機関と市民社会が参加する透明で独立的な調査委員会の下で事故の原因を究明し、責任を追及することを要求している。
 この声明によると、今回の事故は孤立したものではなく、過去17年間に同州で大きな事故が多発しており、ダムの決壊が企業の無責任な行動と政府機関の怠慢の結果である。

 同労組はすでに15年のフンダオ・ダムの崩壊事故についてOECDにヴァーレ社への苦情申し立てを行っている。

 声明はまた「この国の自然資源はこの国の人々の生活条件の改善のために使われるべきである」と述べている。

 

★カンボジア:衣料工場の閉鎖に抗議のスト

 1月22日、プノンペンのルセイケオ地区のロング・ヴィクトリー・インターナショナル社(衣料品製造)の400人余の労働者が工場閉鎖の動きに抗議してストライキに入った。企業側はすでに機械設備の搬出を始めている。

 

 労働者たちは1月に、契約期間切れになった労働者の未払い手当の支払いを要求して、すでに3回のストライキを行っている。従業員1400人の内420人がストライキに参加した。

 

 ストに参加している一人の労働者によると「最初の2回のストライキの後、会社側が解決策を見つけると約束したので、労働者は職場に戻ることに同意した。しかし会社側は約束を守らず、一部の材料を工場外へ移転した」。

  この地区の副知事は、労働者と会社側がすでに合意に達しているのだから、もし会社側が約束を守らないのなら労働省が介入するだろうと述べている。

 

 同日、プレア・シアヌーク県プレイ・ノップ地区のジャンダ・ガーメント社でも約700人の衣料労働者が不規則な給料支払いと残業の強要に抗議した。

 最近、フン・セン首相は労働組合リーダーたちに対して、賃上げ要求で労働者にストを呼びかけないことを要請した。そのような行為があれば約800の企業が操業を停止するかも知れないからという理由である。

 

(「クメール・タイムズ」1月23日付)

 

 

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