アジア@世界              喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
981号

★バングラデシュ:
  ラナプラザ・ビル倒壊から6年 衣料ブランドは工場安全への責任を

 2013年4月24日にダッカ近郊のラナプラザ・ビルが倒壊し、このビルで操業していた衣料工場の労働者1100人以上が死亡した。
 国際的労働組合や消費者団体からの圧力を受けて、欧米の主要ブランド・小売りチェーンは工場安全協定を締結し、自社の供給チェーン内の工場の安全点検と改善に取り組んできた。
 工場安全協定の期間終了にあたって、工場の安全は改善されてきたのか、この取り組みは今後どのように継続されるのか。以下は「イン・ジーズ・タイムズ」誌のウェブに掲載されたミシェル・チェンさんのレポート(3月24日付)の抄訳である。

 

 この数年、世界の搾取工場の要塞の1つであるこの産業を改革するための革新的なシステムが徐々に前進しており、世界で最も危険な工場のいくつかを監査し、改善してきた。しかし、バングラデシュの工場安全協定(アコード)は約5年間の着実な発展の後、政治的圧力の下で中断される可能性がある。

 

 アコードは労働監査官、労働組合、労働者支援団体の国際的なチームによって運営され、強制力を付与されており、多国籍ファッション・ブランドの協力と資金負担、ILOによる監督、そしてインダストリオール、AFL・C10などの国際的労働組合やバングラデシュ国内の労働組合からの支援を受けて、現在までに約2千の工場の検査を実施し、数万件の危険箇所を見つけてきた。

 また、安全に関する研修や労働者自身による監視プログラムの導入を支援してきた。

 

 1100以上の工場で改修が完了または進行中であり、火災関連および電気安全関連の数万件の修理が完了している。

 修理の内容は非常出口や警報システムの修理から配線の改善、認定技術による評価の提供まで広範にわたっている。

 アコードに署名したブランドからの資金は、標準的な安全基準への適合が財務上も社会的にも持続可能であることを保証している。これはグローバル・サウスの他の製造拠点にとってもモデルとなりうる試みである。

 

 しかし、今日、バングラデシュの政府や産業界がこの数年間の前進を掘り崩す動きを進めており、アコードは危機に直面している。

 バングラデシュ政府はアコードのダッカ事務所の活動を昨年11月末で停止することを命じ、アコードのスタッフが安全基準違反を摘発したり、内部告発者に対して報復した雇用主を処罰する権限を大幅に制限した。この問題については現在、高等裁判所で争われている。

 

 政府は工場の安全監督の役割を工場設備検査庁の改善調整室(RCCIDIFE)に移管しようとしている。アコードは2月中旬の運営委員会で「RCCIDIFEはまだ開発の初期段階にとどまっており、現在の工場における安全・衛生を適切に規制する用意ができていない」と指摘している。

 米国に本部を置く国際労働権フォーラムのリァナ・フォクスボグさんは「政府が導入しようとしている制約はこの国際的に評価されている安全への取り組みから政府や企業に対する独立性を奪うものだ」と述べている。

 

 アコードは成果を上げているとはいえ、バングラデシュの数千の工場の一部を対象としているにすぎない。

 アコードとは別に、GAPなどのブランドの主導で、強制力を伴わない自主的イニシアチブとして活動してきたバングラデシュ労働者安全連合(アライアンス)は2018年末以降段階的に活動を停止している。

 

 アコードに署名しているバングラデシュの労働組合のーつである全国衣料労働者連盟(NGWF)のリーダーのアミン・アミフル・バクさんは「アコードによる検査プログラムは進行中であり、まだ目的を達成していない。アコードが活動を継続できることは労働者の安全にとっても、産業の利益にとっても重要なことだ。そうしなければ世界の消費者やバイヤーが再びバングラデシュで生産された衣料品への信頼をなくすだろう」と述べている。

 

 長年にわたりサプライチェーンの改革のための運動を続けてきたバングラデシュ労働者連帯センターのカルポナ・アクテルさんは次のように述べている。

 「アコードは大きな変化をもたらし、労働者の生活をより安全なものにしてきた。今では労働者は危険な仕事にノーと言う権利がある。アコードが活動を制約されることになれば、再び労働者を危険にさらすことになる。私たちはこの危険を冒すべきではない」。

 

 アコードのダッカ事務所を退去させようとする動きと同時に、18年12月から19年1月にかけて衣料労働者への刑事弾圧と解雇の攻撃が続いた。(本誌3月号を参照)

 

★ロシア:フォードの工場閉鎖計画に抗議、順法闘争

 ロシアのフォード労働者が工場閉鎖の計画をめぐって順法闘争(設備に問題がある場合には作業を中止する等)を開始した。

 

 サンクトペテルブルク工場の900人の労働者の約3分1を代表する労働組合のミハイル・セルゲイエフ委員長は4月8日、APの記者に対して、[順法闘争はフォードが人員削減に関する交渉に応じるまで続く」と語った。
 同委員長によると組合は2年分の賃金に相当する退職金を要求しており、同社の米国の経営陣にこの紛争への関与を求めることを計画している。

 組合はまた、「労働者を脅して要求を引き下げさせる」ことを狙った措置に反対している。たとえば頻繁に病休を取ったり、生産性が低いとみなされる労働者について、退職金を減額するなどの措置である。

 

 フォード社は3月に、同社とソレルス社の合弁会社の販売不振が続く中、ロシアの自動車市場から撤退し、2つの組立工場とーつのエンジン工場を閉鎖すると発表した。

 バンの生産は、リストラ計画の一環としてロシアのパートナーであるソレルスが多数株主となった合弁会社の工場で継続される。

 

 ロシアでは多くの労働組合が経営陣と親密な関係を保っており、組織的な労働争議は稀であるが、自動車業界は数少ない例外である。

(AP4月8日付)

 

★アルゼンチン:首都で反緊縮デモ

 4月4日、首都ブエノスアイレスで、マクリ政権の緊縮政策に抗議するデモに数千人が参加した。
 マクリ政権は昨年、560億ドルの債務の救済に関するIMFとの合意に基づいて、財政赤字を0にすることを決定した。不況下のこの緊縮政策で社会不安が高まっている。

 

 デモを呼びかけた労働総同盟(CGT)は、この政策が何千もの中小企業を倒産に追い込み、国の経済を破壊すると批判している。
 運輸組合連合のリーダーのフアン・カルロス・シユミットさんは「このデモは日常的な不安のもうーつの表れだ。この道を進み続けることは奈落へ突き進むことだ。経済政策を変えなければならない。これまでは果てしない調整の政策だった」と言う。

 数千人の組合員たちはマクリ大統領とIMFを非難する明るい色のバナーやプラカードを掲げて、土砂降りの雨の中をプラサ・デ・マヨ広場の大統領府まで行進した。

 

 15年に中道右派のカンビエモス(「さあ変えよう」)連合の代表として大統領選挙で勝利したマクリは彼の緊縮政策に対する人々の怒りの拡大を食い止めることができなかった。この政策はすでにインフレ(18年に47%に達している)に苦しめられている低所得層への社会的サービスを切り捨てるものだった。
 マクリは支持率低下に動揺することなく、厳しい改革を継続する必要があるとして、10月の大統領選挙と議会選挙での再選を目指している。

 

 デモに参加したブランカ・カルモナさん(55歳)は「電気代やガス料金を払う余裕もない。近所の人たちはこれまではガーデニングのような小さな仕事をしていたが、今ではいなくなった。中流階級が崩壊している」と言う。

 

 先週発表された統計によると、貧困ライン以下の人口の割合は12月には32%に増えた。17年には25%だった。

 中小企業はこの歳出削減に直撃されている。アルゼンチン中小企業連合のオスバルド・コルニデ会長によると「中小企業は非常に重大な時期に向かっており、毎日のように数百社の中小企業が倒産し、労働者を解雇している。

 加盟企業は支払い不能な関税、インフレによる実質賃金低下の結果としての国内市場の崩壊、大量解雇に伴う多くの人々の消費市場からの排除、無差別的な輸入品への市場開放、常軌を逸した金利、そして耐えられない税の圧力の破壊的で理不尽な組み合わせに苦しんでいる。

 

 CGTのエクトル・ダエァ書記長は10月の選挙でのマクリの再選を阻止するための広範な「野党戦線」の結成を呼びかけている。

 「私たちはこの国のための代替案と異なるモデルを求めて前進しなければならない、私たちはこんな状態を続けることはできない」と語った。

 

(AFP4月4日付)

 

 

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