アジア@世界              喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
983号

★香港:天安門弾圧から30年 職工会聯盟の声明

 以下は香港の民主派の労働組合、職工会聯盟(HKCTU)の6月4日付の声明である。タイトルは「私たちの力の源は団結にあり、成功の源は断乎たる信念にあり―六四天安門事件の記憶を護持しつづけ、中国共産党の専制に対抗する」。

 

 30年前、香港人はテレビの生中継を通じて、天安門広場にそびえ立つ民主の女神像が、人民解放軍の蹄鉄によって打ち倒されるところを目撃しました。民主と自由の象徴であった天安門広場を守るために、無数の労働者と学生が命を懸けました。この驚くべき歴史の記憶は、香港人一人一人の心に深く刻み込まれました。

 

 残念なことに、30年後の今日、この記憶を拒否し、忘却を選択しようとする人がいるのです。しかしHKCTUは忘れません。私たちは労働者と学生が正義と民主を追い求めた熱意を忘れてはいません。わたしたちは労働者と学生の訴えに対する中国共産党官僚の軽蔑を忘れてはいません。それ以上に、わたしたちは労働者と学生の勇気と英雄的行為を忘れてはいません。

 

 あのとき多くの都市で労働者が中華全国総工会の縛りから自らを解放し、つぎつぎに工人自治聯合会(工自聯)を結成して民主化運動に参加したのです。中国共産党政権はじまって以来、労働者がはじめて結社の自由に関する権利を実現したのです。

 しかし中国共産党はそれを武力で鎮圧し、わずかの時間に享受した自由も途絶えてしまいました。

 

 習近平の登場から現在まで、その強権的作風が国内の労働運動活動家を抑圧してきました。李旺陽、劉少明、白東平、周勇軍など全国各地の当時の工自聯のメンバーは、のちに中共政権からさまざまな弾圧を受けました。1989年のときも2019年の現在も、中国の労働者が立ち上がって自主労組を結成しようとすれば、同じように大きな政治的リスクを払うことになります。

 2018年には深セン佳士の労働者が労組結成を試みたことで当局から弾圧され、現在までに50人を超す労働者と学生が捕まっています。

 

 習近平が「人類運命共同体の構築を進める」という文言を華々しく憲法に書き加えようとするなかで、深セン佳士の労働者たちの悲惨な経験が明らかにしたことは、中国共産党の「人類運命共同体」が、官僚と資本家が結託した利益共同体に過ぎないことでした。

 

 林鄭[香港行政長官]統治下の特区政府による異論派への弾圧は、習政権の強権的作風と無関係ではありません。

 「オキュパイ・セントラル9人組」起訴[雨傘運動の指導者9人が起訴され有罪判決を受けた]し、グレート・ベイ・エリア建設[国務院が香港、マカオ、広東の一体的建設計画を発表した]、民意無視の高速鉄道の一地両検[中国出入国管理局が越権して香港で業務を行う]、「逃亡犯条例」の改訂など、いずれも特区政府が「一国二制度、高度な自治」を無視したものであり、習政権による全権統制のためのものにすぎません。

 香港はまさに「一国一制度」の暗黒の時代に入りつつあります。

 

 (中略)ゆえに、HKCTUは六四の記憶を護持しつづけることが、良識という道徳責任を負うだけでなく、中共の強権に抵抗する歴史的使命をも担うことだと深く確信しています。

 香港と中国の労働者と市民の権利がますます政権によって躁踊されるいま、私たちは断乎たる信念で、民主化を押し進めるという責任を堂々と遂行し、中共政権の専制と独裁を打ち倒すために、香港と中国の労働者が団結し、ともに戦い続けることを選択します。

(翻訳は稲垣豊さん)

 

★スーダン:軍の虐殺に抗議、文民政権への移行を求めてゼネスト

 スーダンでは昨年12月以降の民主化運動の高揚の中で4月11日にバシール大統領が政権を追われ、暫定軍事評議会(TMC)が権力を掌握した。

 軍は文民統治への平和的な移行を要求して4月6日以降ハルツームの軍司令部の外で座り込みを続けていた民衆に対して武力攻撃を強化しており、多数の犠牲者が出ている。

 民主化運動の中心となっているスーダン専門職協会(SPA)は6月3日付の対外関係委員会の声明で次のように述べている。

 

 「本日早朝、治安部隊と警察に支援された機動支援部隊(RSF)が首都ハルツームの軍司令部の前で座り込みをしていた人々を急襲した。猛烈な銃撃の中で非武装の市民が多数死亡した。犠牲者の数は不明である。

 私たちはこの襲撃がスーダンの人々に対する犯罪であり、旧体制の戦術と政策への完全な逆戻りであると考える」

 

 6月3日の虐殺の後も攻撃は続き、スーダン医師中央委員会の同5日付の声明によると同会は108人の犠牲者を確認している。実際の犠牲者の数はもっと多いと考えられる。

 同9日からTMCに抗議するゼネストが始まっている。

 以下は「アルジャジーラ」同9日付からの抜粋である。

 

 「日曜日(6月9日)から始まった市民の不服従運動を鎮圧するために治安部隊が出動し、抗議運動に参加している医師のグループによると、首都ハルツームと近くのオムドゥルマンで、少なくとも4人が殺された。
 公共交通機関はほとんど機能しておらず、ほとんどの商業銀行、民間企業や市場は閉鎖されている。一部の国営の銀行と公共企業は業務を行っている。
 野党と抗議運動を呼びかけているグループは3日の治安部隊による座り込みへの襲撃の後、労働者に自宅に留まるよう呼びかけた。

 

 目撃者によると『バハリの地域内の道路は大部分が封鎖されている。抗議運動の参加者たちは住民が仕事に行くのも阻止しようとしている』。

 医師中央委員会によると『2人は殴打されたあと刺されて死亡し、2人は射殺された。準軍事団体による犯行と考えられる』。

 

 現地の報道によると治安部隊は同日、空港職員およびスーダン中央銀行の職員を逮捕した。

 バシール政権に対する数カ月にわたる抗議行動を主導したスーダン専門家協会(SPA)は、『市民の不服従運動は9日から始まり、国営テレビで文民政府が権力を行使すると発表したときにのみ終了する。……不服従は世界で最も強力な武器にも打ち勝つことができる平和的な行動である』と述べている」

 

★ブラジル:右派政権の教育への攻撃に抗議、100万人がデモ

 5月16日、ボルソナロ政権の公教育への攻撃に抗議して全国で100万人の学生、学者、教員がデモに参加した。
 首都ブラジリアでは学生たちがは大統領の肖像を燃やしながら「ボルソナラよ、のた打ち回れ」というスローガンを唱和した。

 北東部のサルバドールでは7万人がデモに参加した。リオのダウンタウンでは数千人の学生が「教育は経費ではなく投資だ」と書いたプラカードを掲げて行進した。

 

 サンパウロでデモに参加した都市計画プランナーのロドリゴ・イアコヴィニさんは「これは大学だけでなくあらゆるレベルの教育への攻撃だ。悪くなるとは思っていたが、ここまで悪くなるとは思っていなかった」と語った。

 

 ブラジル北東部のセルジペ州でデモに参加したマリア・アルメイダさんは教育予算の削減によって貧困家庭出身の学生たちが教育を受けられなくなることが心配だという。彼女はルラとルセブの左派政権によって創設された教育プログラムの支援によって生物医学の学位を取得し、米国に留学している。

 

 ボルソナロは昨年10月の選挙で、左派政権の下での最悪の景気後退と汚職への広範な怒りに便乗して圧勝した。しかし、この極右ポピュリスト政権の最初の半年間で政権に批判的な有権者が増え、2月の17%から36%に増加。
 4月に教育相が発表した国立大学予算の大幅削減の計画はとりわけ大きな怒りを引き起こし、今回のデモは就任早々の大統領に対する抗議行動としてはこの数十年で最大の規模となった。

 

 この計画は国立大学を財政的に締め付けることによって民間の教育企業に高等教育市場を開放することを意図しており、すでに3千人の修士・学士への奨学金が停止されている。計画発表の直後から有力な教育企業の株価が急上昇している。社会学や哲学の分野の教育への支出の停止も計画されている。ボルソナロはこれらの分野を「共産主義」とみなしている。

 

  ボルソナロは彼を支持する放送局「レコード」とのインタビューで、デモ参加の学生を「教師によって操作され、自分たちが何をしているのも知らない無知な子供」だと非難した。
 左派の社会主義自由党(PSOL)の代表のジュリアノ・メデイロスさんは、「今日のデモはボルソナロ政権に対する社会的動員の拡大の一環である。私たちはボルソナロはブラジル社会に背を向けて統治することはできないということを示した」と語った。

 

 全国教育労働者連盟は今回の教育ストが、教育だけでなくボルソナロ政権のあらゆる分野での緊縮政策に対する継続的な動員のウォームアップにすぎないと宣言している。

 

(英国「ガーディアン」紙5月30日付、「アイズ・オン・ラテンアメリカ」5月16日付より)

 

 

 

 

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