アジア@世界             喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
993号

★米国:病院前で看護師が安全保護を要求する行動

 4月3日、NY市マンハッタン地区のマウントシナイ病院の看護師たち数十人が、コロナ・ウイルスに感染して死亡した同僚たちの写真を掲げて、医療従事者の安全保護の強化を訴えた。

 

 看護師のダイアナさんは「私たちは最悪の敵を前にしています。なぜなら、これは見えない敵だからです。私たちには闘う手段が何もありません」と言う。

 看護師たちは感染防止用のマスク、帽子、化学防護服を要求している。

 

 勤続9年のベテラン看護師のサーシャさんは5歳の子の母である。病院の入口の外に立っている彼女のプラカードには「私たちはあなたの遺体袋になりたくない」と書かれている。

 彼女は3人の看護師で35人の患者の看護をしており、患者の大部分がウィルスに感染している。人員が少ないことに加えて、感染者数が猛烈なペースで増えている。

 

 市内のいくつかの病院で内科を担当しているマイクさんは、「誰も特別のことを要求しているわけではありません。安心して仕事ができるための基本的なことを要求しているだけです。私たちはこのパンデミックの最前線にいます。私たちは何が必要かをよく知っています」と語る。

 

 サーシャさんによると、経営側は彼女たちの行動が始まる5時間前に、N95保護マスクの支給などいくつかの要求に同意した。

 

(「ニューヨーク・デイリーニューズ」紙4月3日付)

 

★イタリア:公共部門の労働者がウィルスとの闘いの前線に

 イタリア最大の公共サービス労組FP-CGILのセレーナ・ソレンティノ書記長は「公共セクターを『効率化』するための政策によって攻撃されてきたが、現在、この労働者こそがウィルスとの闘いの最前線に立っている」と語る。

 

 イタリアは[4月初旬]段階コロナ・ウイルス感染による死者が最も多い国になっている。

 コロナ・ウイルス危機はこの国の公共医療における構造的かつ長期的な危機を白日の下に曝した。

 

 イタリアの全国医療サービス(SSN)は数十年にわたる新自由主義的経済政策の結果、この危機の中で医療労働者と病院ベッドの不足に直面している。

 2010年から18年までにSSNの常勤の職員は68万7千人から64万7千人に削減され(5・75%減)、ベッド数は18万7千床から15万7千床に削減された(15・9%減)。

 

 世界的にこのような政策は公共医療を民間企業の論理に従って再編することをめざしていた。

 それは、公共支出は浪費であり、公共セクターの労働者は怠け者であるという語り口によって正当化されてきた。

 それによって人々の健康や国民全体の健康にとっての国家の役割に関する議論が回避されてきた。

 

 しかし、2月中旬以降、SSNは全国でウィルスに感染した人々の治療のために想像を絶する努力を続けている。

 以下はソレンティノ書記長とのインタビューの抜粋である。

 

 「この10年間に公共医療サービスの予算の削減は370億ユーロに及ぶ。

 この危機の中で引退した医師を呼び戻したり、外国からの医療スタッフを迎えているが、近年、イタリアで教育を受けた若い医師が、雇用先がないことや劣悪な労働条件のため、大量に国外に流出している。

 

 公共医療機関の人員や設備が削減され、民間の市場が拡大し、医療費の負担が増えた。

 民間医療機関の労働条件は劣悪で、労働者の権利も抑圧されている。

 この危機の中でも一部の医療機関は利潤優先で、緊急でない高額医療を優先したり、利益の大きい救急医療にだけ関わっている。

 民間の養護施設は経営者の社会的責任の欠如のシンボルとなりつつある。

 

 多くの経営者は職員に基本的な保護手段さえ提供せず、重症化のリスクが高い高齢者との接触について何の配慮もしていない。
 公共サービスや福祉、教育に関わっている労働者たちは十分な保護手段がない中で、自分や近親者を感染の危険にさらしながら、すべての人々が必要とするサービスを保証している。

 彼ら彼女らは義務感と公共への献身からその活動を続けている。

 

 公共サービスの役割について、社会的レベルだけでなく経済的レベルにおいても再考するべきだ。

 彼ら彼女らの仕事を『財政支出』としてのみ考えるのをやめるべきだ。

 福祉なしには発展はないことを理解するべきだ」。

 

(「イコール・タイムズ」4月7日付)

 

★イタリア:建設労働組合が移住労働者の休業給付金取得を支援

 国際建設林業労働組合連盟(BWI)傘下のFILLEA-CGILは建設産業の移住労働者に対してコロナ・ウイルス対策期間中に受給できる給付について知らせる手紙を発表した。

 これには所得補償と失業手当が含まれ、本国に帰ることを決めた労働者も受給できる。

 

 このほかにイタリア政府は12歳以下の子どもの両親のいずれかに特別育児休暇か、またはベビーシッター手当を給付している。

 また12歳から16歳の子どもの両親である労働者には、危機が収拾したあと職場に戻れるように、有給休暇が与えられる。

 

 2月23日以降に解雇された移住労働者は解雇が60日間猶予され、その間は雇用契約通りの報酬が継続される。

 

 組合は移住労働者に対して、帰国する場合は必ず雇用主に知らせること、また、仕事を続ける場合は健康状態に関して政府が定めている特別の規定に従うことを呼びかけている。

 

(BWIのプログ、4月1日付)

 

★バングラデシュ:
ファッション・ブランドの注文キャンセルで衣料労働者の雇用が危機に

 バングラデシュの衣料産業ではコロナ・ウイルスのパンデミックによる欧米からの注文のキャンセルが相次ぎ、多くの工場が閉鎖されている。

 

 バングラデシュは輸出の80%以上を衣料産業に依存しており、約4千の工場で約400万人が雇用されている。

 この日、感染対策として政府によって命じられた10日間の休業が終わった後、労働者たちはダッカの工場に行き、3月分の給料を受け取って、仕事を再開しようとしていた。

 政府は後に休業期間を4月14日まで延長したが、労働者たちは工場のオーナーが4月5日に戻るよう求めたと言っている。

 

 労働者たちを組織しているソミリット・ガーメント・スラミク連盟(SGSF)のカディザ・アクテル副委員長は、「今朝、労働者たちが出勤したとき、ほとんどの労働者がレイオフを告げられるか、封鎖解除後に工場を再開すると言われた」と語った。

 

 アクテルさんによると、オーナーたちは「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」についての勧告を無視して、操業を再開するために数千人の労働者を感染の危険に曝した。

 工場の外で警察官が労働者たちに帰宅を促した。

 「労働者たちが戻ってくる必要はなかった。工場の閉鎖についての通知なら電話ですむことだ」と彼女は言う。

 

 衣料産業の労働組合は政府、バイヤー、工場のオーナーに対して、労働者に生活費を支払うことを要求している。

 バブール・ラーマンさん(仮名)は公共交通機関が止まっているために150キロ離れた実家からリキシャ(オート三輪)で移動し、レイオフを告げられた。「5日に来るように言われたので来たのに、封鎖されていた」と彼は言う。

 

 バングラデシュの労働法によると、レイオフ期間中は賃金が通常よりも少なくなる。

 「家族はがっかりするだろう。コロナ・ウイルスのために何もかも値上がりしている時に、収入が減ったらどうやって生きていけばいいのかわからない」とラーマン氏は語った。

 

 労働雇用省は衣料工場の経営者に労働者を解雇せず、4月12日までに3月分の給与を全額支払うよう求めている。

 同省の広報官は「いくつかの間題があったことは知っているが、経営者たちは私たちの要請を受け入れるだろう」と語っている。

 

 2つの主要な業界団体は先週、「バングラデシュは今年度、衣料品ブランドと小売店からの注文キャンセルのために、約60億ドルの輸出収益を失うだろう」と警告している。

 労働組合と人権団体は、西側の主要なバイヤーに対して、バングラデシュの衣料労働者を経済的に支援するように求めてきた。

 

 インダストリオール・グローバルユニオンのアプアバ・カイワールさんは「私たちはその実現のために加盟組合と協力しています。衣料品ブランドはまだ社内で議論を続けていますが、近い将来に前向きな進展があることを期待しています」と語っている。

 

(「ロイター」4月6日付)

 

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