アジア@世界             喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
996号

★米国:フェイスブック、組合破壊ツールをアップグレード

 フェイスブックは最近、フェイスブック・ワークプレイス(ビジネス向けSNSサービス)の新バージョンを発表した。

 これは組織やチームでの共同作業を効率よく行うためのチャット機能や、スケジュール管理、コンテンツ管理、ファイル共有機能などを組み込んだサービスであるが、新バージョンでは管理者が特定の単語(たとえば「組合結成」)を検閲できる。

 

 巨大な影響力を持つフェイスブックのこの動きに対して、労働組合は警戒を強めている。
 米国のAFL・CIOはフェイスブックが「自由な言論の擁護者として自己宣伝している一方で、顧客企業に対して従業員の言論を抑制する手段を売り込んでいる」と非難し、調査を要求した。

 

 組合破壊に対して米国ほど寛容でないヨーロッパでは、欧州労連(ETIC)がその声明で、「フェイスブックに対して組合破壊や労働組合とその代表および労働者に対する差別的な行為は国際的および欧州人権基準によって絶対的に禁止されていることを思い知らせるだろう」と述べている。

 

 UNーグローバル・ユニオンのクリスティ・ホフマン書記長は次のように述べている。

 「狙いははっきりしている。フェイスブックは顧客の反組合的なニーズを自分たちの収益に結び付けたいと考えている。同社はまた、組合破壊は全く正常であり、許容されると確信しており、だからそのことを『うっかりと』社内向けプレゼンテーションに含めてしまったのだ」。

 

 フェイスブックだけではない。グーグルも2019年に、これまで誇らしげに宣伝してきた「開放的な企業文化」から逸脱して、グーグル・クロームの拡張バージョンに従業員の労働者の権利やデモについての投稿を監視するスパイ・ツールを組み込んだ。

 それだけでなく、グーグルはグーグル・クロームを使って労働者の権利について同僚たちに知らせようとした従業員に懲罰を与えた。

 

 また、昨年11月には、悪名高い組合対策コンサルタント会社IRIと業務契約を結んだことでメディアの注目を集めた。

 同12月にはIRIのウェブサイトにアクセスして技術者たちに組合加盟の権利があることを知らせた従業員を解雇した。

 

 アマゾンは米国で最初に組合活動を抑圧する目的でIT技術を使った企業のーつであり、2000年にシアトルのコールセンターでの組合結成キャンペーンを失敗させるために反組合のウェブサイトを活用した。

 同社は2017年にホールフーズ(食品チェーン)を140億ドルで買収し、このチェーンが同4月に導入した対話型の「ヒートマップ」はすべての加盟店の組合対策の脆弱性を評価する機能を備えている。

 そこでは店舗の郵便番号から割り出した従業員の中の貧困ライン以下の家族の割合やその地域の失業率、労働者が提出した職場に関する苦情の数、労働者の民族・人種構成などのデータが活用される。

 

 これまでハイテク企業は冷酷な効率主義で労働運動を抑制してきたが、技術労働者の間で抗議の声が広がっている。

 今年5月にはアマゾンの子会社の上級エンジニアで副社長のティム・プレイ氏が、アマゾンの倉庫の労働条件について内部告発した従業員の解雇に抗議して辞職、アマゾン社の会社分割を要求した。

 同氏はUNーグローバル・ユニオンが主催するバーチャル・ミーティングで発言し、多くの技術労働者はアマゾンの雇用政策について発言権を求めていると語った。

 

 6月1日にはフェイスブックの労働者が「バーチャル・ストライキ」を行った。これには一部の上級技術者も参加し、あるエンジニアリング・チームは全員が参加した。

 トランプ大統領が黒人たちの抗議運動に関連して「略奪が始まれば射撃が始まる」と投稿したのをフェイスブックがコメントなしに拡散したことへの抗議である。

 

 フェイスブックやグーグル、アマゾンなどの組合破壊ツールは放置しておけば労働組合の組織化にとって一層不利な条件を生み出すだろう。

 問題は今日のハイテク技術者の中にティム・ブレイズに続く者がどれだけいるかである。

 

 ビデオゲーム・デザイナーの中にも労働組合は抑圧的な労働文化と戦う有効な手段だと考える者が増えている。

 労働者の組織化が広がればこれらの監視ツールは集団的な抗議の声を抑えるのに役立たなくなるかも知れない。

 

(「トウルース・アウト」紙7月6日付より)

 

★ドイツ:食肉工場でコロナウイルスの集団感染

 ドイツの大手食肉生産企業テンニースの多数の労働者がコロナウイルスに感染したことが伝えられている。劣悪な労働条件が一因である。

 他の多くのヨーロッパの企業でも労働者の扱いはあまり変わらない。

 

 テンニースではこれまでに千五百人以上の労働者が検査で陽性を示している。この集団感染は同社で働く外国人労働者の多くが過密な宿舎で生活していたことに起因すると考えられる。

 しかもテンニースは工場内でも必要な身体的距離を確保する措置を取っていなかった。

 

 他の国でも食肉工場の危険な労働条件が指摘されている。

 欧州食品・農業・観光労働組合連盟(EFFAT)の最近のレポートによると「全ヨーロッパの多くの国で、劣悪な労働、雇用、住居の状況が何千人もの食肉労働者を危険に曝している」。

 

 オランダのドイツとの国境近くにある食肉工場では労働者の20%が感染し、5月に工場は閉鎖されたが、ほとんどの労働者はドイツに居住し、国境を越えて通勤していた。そのため検査はドイツ当局が要求した後に実施された。

 

 ヨーロッパの食肉産業の労働者の多くは下請企業に雇用されており、東ヨーロッパ、アフリカ、南アメリカからの移住労働者である。ドイッの食肉工場では80%が東ヨーロッパ出身の移民労働者である。

 

 ドイツの食肉処理工場は動物のと殺に下請企業の労働者を使っている。したがって書類上は食肉処理工場はそれらの労働者の数や賃金、作業工程に責任を負わない。

 この法律上の抜け穴のために、労働者は不安定な経済状況、休憩なしでの長時間の作業、基本的な衛生基準を満たさない宿舎に耐えなければならない。

 宿舎で感染すれば職場で身体的距離を保っても無意味である。

 

 食肉処理場の空調システムはウイルス粒子を拡散させ、感染のリスクを高める可能性がある。低温下での作業のためウイルスに感染しやすくなる。
 そうした要因のため、全ヨーロッパで食肉工場での感染が多発している。

 

 EFFATは移住労働者の生活状況のチェックが実施されている場合にのみウイルスを封じ込めることができると主張している。

 デンマークでは食肉工場の労働者の4分の3がデンマーク人であり、感染は発生していない。スペインは食肉産業の移民労働者の数を減らした。

 

 米国でも食肉工場での感染が急増している。しかしトランプ米大統領が食肉産業は重要産業であるとして5月に多くの工場を再開させた。

 

(「DW」紙6月26日付)。

 

★バングラデシュ:衣料労働者が未払賃金の支払いと職場の安全を要求

 バングラデシュの衣料産業は世界的なコロナ危機の中で深刻な打撃を受けている。35億ドル以Lの海外からの注文がキャンセルされた。この産業の50万人の労働者が失業の危機に直面している。

 

 コロナ危機がこの国を襲ったとき、誰もがマスクを着けはじめ、中間階層の人たちは数カ月分の食糧を蓄えて、群衆を避けるようになった。在宅で仕事ができる人たちはそうした。

 しかし衣料労働者にはそんな余裕はなかった。彼ら・彼女らはロックダウン中も工場へ通いつづけたし、彼ら・彼女らの住宅環境ではソーシャル・ディスタンスは無理だった。

 

 工場が閉鎖された数日間、多くの衣料労働者は出身地の村へ帰った。しかし、工場が再開されてからは、政府が通勤のための公共交通を禁止しているため、徒歩か私有の交通手段を使って通勤している。常に解雇、賃金カット、賃金不払いに怯えながら。

 

 多くの工場ではこの5カ月間、賃金が払われていない。抗議の高まりの中で経営者たちは2カ月分の支払いを約束したが、それすらまだ完全には実施されていない。

 

 バングラデシュではこれまでに10万人以上が感染し、1300人が死亡している。

 社会運動も多くが活動を停止しているが、労働者の抗議運動はロックダウン中も続いている。

 労働者たちはロックダウン中の賃金の100%補償と労働者の安全のための措置を要求しているが、工場の経営者も、発注元であるグローバル企業も、そして政府も責任を引き受けようとしてない。

 

 衣料労働者はこの国の経済の背骨であり、輸出収入の84%を生み出している。
 それにもかかわらず彼ら彼女らは人間らしい尊厳と生活を保障されていない

 

(米国「ネーション」誌6月22日付より)。

 

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