アジア@世界             喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
997+8号

★中国:パンデミック下での労働者の組織化

 以下は中国の左派のプログ「工人自習室」に2020年5月に発表された「パンデミック下での労働者の組織化」と7月17日付の付記である(英訳版からの抄訳)。

 

 本稿はパンデミック中の中国、特に珠江三角州における労働者の組織化と行動に焦点を当て、いくつかの有益な情報をまとめ、状況の初歩的な分析を行うことを目的としている。

 

 1 住民の自主的組織化

 

 COVID―19のこれまで経験したことがないような危機の中で、住民や学生の間で自主的に組織された相互扶助が急速に出現した。

 武漢や湖北省の他の地域から、省内の医療従事者や患者への支援のための地域的な取り組みが組織された。

 

 また、労働者を直接に支援する緊急の組織化や行動も現れた。

 道路掃除の労働者にマスクや機器を提供するグループ、マスク・手袋などの保護具と安全教育のためのパンフレットを提供するグループなどである。

 

 その多くは学生を中心に、さまざまな地域で状況に対応してオンラインで始まった。

 もともと社会問題にかかわっていや大学生のグループや、清掃労働者を支援していたグループ、あるいは左翼学生のグループが始めたものもある。

 

 多くのグループは非常にオープンに運営されており、国内の政治状況をよく認識しており、政治には深入りせず、政府に批判的な世論を誘発するのでなく、不必要なリスクを回避してきた。

 

 これらのグループの設立に関与した人々の一部は当局による監視下にあることが知られていたが、グループの活動への妨害はなかった。

 

 2 オンラインの組織化

 

 パンデミックの期間中、対面のコミュニケーションの代わりに多くのオンラインでの活動が始まった。

 労働問題に焦点を当てた多くの新しいグループが形成された。たとえば政府に春節の休暇の延長を求めるオンライン投票を呼びかけ、組織したグループ、操業再開時に労働者の権利を保護するためのグループ。パンデミックに関する情報を共有するグループなどである。

 

 これらのオンライン・グループには異なる工場、異なる地域の、これまで会ったこともない労働者たちが集まった。

 目標が限定的で、行動の期間が短く、互いの間の深いつながりを確立する必要があまりないグループは参加しやすいが、労働者の権利と賃金を保護するために組織しているグループなどでは、問題を解決するには労働者が自分の職場で行動を起こすことが不可欠であり、オンラインだけでは効果的な行動を取るのは難しい。

 しかも国の監視がある。

 

 したがってそのようなグループは相談活動やコミュニケーションの場の提供を中心としていた。

 

 3 珠江三角州における労働者のパンデミック下の活動

 

 ① パンデミックの始まり:1月下旬から2月上旬 =略=

 

 ② 経済活動の再開:2月中旬から3月上旬

 

 さまざまな理由により国務院は春節の祝日を2月2日まで延長し、大部分の省は2月10日(旧暦の1月17日)から経済活動を段階的に再開した。

 その結果、一部のオンライン勤務のグループが出社勤務の再開の延期を求めたことを除いて、この段階における労働者の抵抗は弱く、再開した企業における保護具の問題や安全対策をめぐる大きな争議は報告されていない。

 

 企業の活動再開に際しては保護対策の遵守が求められ、地方機関による監査が行われ、新たな感染が発生した場合には直ちに操業を停止し、会社全体または建物全体を隔離することを求められた。

 

 地域や工場で検疫体制が導入された。また、ルールに従わなかった企業に対する懲罰的な措置があった。

 

 苦情や不平を申し立てる多くの経路があったため、それらが集団的行動に至ることは少なかった。

 

 ③ 経済活動の再開の後期“3月中旬以降

 

 ■賃金をめぐる紛争

 

 賃金は労働者と資本の間の階級闘争の主要な関心事であり、段階的な経済活動再開が発表された直後から賃金の計算がすべての人の関心の中心となった。

 

 労働社会保障部はパンデミックの期間中に病気で休んだ、あるいは自己隔離した労働者への支払いについて明確な指針を示していたが、企業はパンデミックに関連する休業のコストを労働者に負わせようとした。

 

 3月の初めには労働者たちは次々と2月分の給与を支給されたが、賃金についての問い合わせの件数が増えた。

 

 深センのフォックスコム社は労働者に休業期間は年休扱いすることを提案したが、総工会に加盟する組合の苦情申し立てを受けて方針を変更した。

 一方、以前から日常的に規制に違反していた中小企業は、通常通りに操業し、賃金の遅配、隔離期間中の給与の引き下げ、封鎖のため出勤できなくなった省外からの移住者を個人事情による休職として扱うなどの問題が多発した。

 

 政府から23億元の助成金を受け取ったBYD(電気自動車のメーカー)の労働者たちは、3月20日に、ボーナスの削減や、会社側が約束していた割り増し賃金の取り消しなどの抗議するバナーを掲げ、メディアの注目を集めた。

 

 所得の減少で労働者の不満が広がり、深センのある電子工場で千人の労働者が集団的に休業を要求したり、欠勤したという報告もあるが、全体として労働者は抗議行動をするよりも法的助言を求めることが一般的だった。

 

 ■ 失業と生産の停止

 

 輸出に依存する自動車、衣料品、電子機器産業はコロナ感染で大きな影響を受けた。

 残業は稀になり、新規雇用が中止された。

 一部の企業は操業停止中の人件費を削減するために労働者に離職または無給の求職を求めている。

 

 広州のあるテクノロジー企業では、すべての部門で従業員の15%から20%を6ヵ月間求職させ、その間の社会保険基金への拠出を停止することを提案した。

 一部の労働者は労働局に苦情を申し立てたが、労働局はこの措置が法律の範囲内であるとして申し立てを却下した。

 

 倒産も増え始めている。東莞で30年間操業していたファンタスティック・トイズの工場は資金難に陥り、パンデミックの早い段階で経営者が一時的に姿を消し、3月24日に再び姿を現したとき、工場閉鎖を発表しました。

 未払い賃金の支払いを求める労働者と地区労働局の間の交渉は決裂し、労働者が東莞市労働局に苦情を申し立てに行ったとき、正体不明の暴徒に襲撃された。

 

 この期間の労働者の闘争の大部分は防御的な性格だった。

 「チャイナ・レイバi・ブレティン」の統計によると、2020年1月から4月までの労働者による集団的行動は前年同期より少なかった。

 

 ■ 08~09年の危機との比較

 

 2009年にも膨大な数の労働者が職を失い、故郷や村に戻ったが、その後の各省における巨大なインフラ投資、国内需要の拡大、世界経済の回復の中で、労働者が比較的短期間で再び仕事を見つけることができた。

 しかし、2014年以降の国内経済の成長率低下を考えれば、早期の回復は期待できない。

 

 公式の統計では2020年3月の全国の失業率は5・9%だが、鄭泰証券のレポートによると実際には失業者の数はすでに7000万人を超えており、失業率は20・5%に達している。

 

 一方、全国消費者物価指数を見ると、2020年2月には前年比で5.2%上昇している。しかも食料品の価格は前年比で21・9%の上昇である。

 一般的な労働者の実質所得はこの4一5年間上昇していない。

 

 ……これらの要因のそれぞれが、闘争を始めることを躊躇させている。

 しかし、別の視点から見ると、条件が深刻であり労働者が慎重になっていることは、今後の闘争はよりよく組織化されたものになるかもしれない。

 

 4 7月17日付の付記

 

 この投稿から2ヵ月が経過した今でも、世界的なパンデミックは猛威を振るっている。

 中国では厳格な管理と効果的な接触追跡メカニズムによって、これまでのところに第2波の大規模な感染は防止されている。

 ある地方で再発生した場合でも迅速に制御されている。

 

 その中で当初の国家による流行拡大の隠蔽への怒りは、武漢の一部の当局者にのみ向かうようになり、その後、海外で事態が悪化したことによって、そのような怒りさえ消散し、国家が国内でのパンデミック対策に成功したことへの称賛と感謝に向かい、そして米国が主導する国際的な反中国の十字軍に立ち向かうための愛国心の新たな焦点にさえなっている。

 

 最大のリスクに直面していた医療労働者や配送労働者への待遇改善も見られたため、安全対策をめぐる抗議行動も他国ほどには広がっていない。

 

 しかし、経済面では、パンデミックの全期間にわたって抵抗が発生し、継続している。

 

 5月に江蘇省徐州の医療労働者は勤務先の公立病院を民営化する動きに反対してストライキを行った。

 フードデリバリー労働者の間で、罰金や給与カットに対するストライキが繰り返し発生している。

 6月と7月には製造業とサービス産業での労働争議の数が少し増加している。

 

 ただし大規模な集団行動は発生していない。

 経済の減速の中で大きな成果を得られる見込みについて、誰もが悲観的になっていることや、いくつかの州で起こった闘争に対する強権的な弾圧のためだろう。

 

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