たたかいの現場から
785号

アリがあばいた巨象JR東日本の犯罪
 動かぬ証拠・松田常務発言「反対派はしゅん別し断固として排除する」

 1月26日、辻井義春さんの国労バッジ事件(本誌778号)で、神奈川地労委は画期的勝利命令を出した。その「命令書」全文を読むことができた。
 命令の主文は、国労バッジ着用で処分したのは、辻井さんの組合活動に対する支配介入であり「労働組合法第7条違反」の不当労働行為にあたること。従って、処分によって減額した賃金・手当の差額分を支払うこと。またJR東日本は本人に、「今後、このような行為を繰り返さないようにいたします」という文書を、速やかに手交しなければならない、となっている。完全勝利である。しかも、再発防止の約束文書を手交せという命令は異例で、地労委はJR東日本の不当労働行為に相当怒っていることがわかる。
 国労は会社からの圧力に耐えられず、バッジ闘争を途中でやめたため、6万人のJR東日本の職場のなかで国労バッジをつけているのは辻井さん一人になっていた。そんな彼にまわりは冷ややかで、「一人でたたかっても意味はない。組合活動といえない」などの声が多々あった。しかし、辻井さんは国鉄分割・民営化で仲間のクビを切ったJRが許せず、どうしてもバッジをはずすことができなかった。命令では、辻井さんのこの行動を「国労が会社との対決姿勢を変えた後は、国労とは一線を画しながら独自の組合活動を行う辻井及び都労委申立人らを“反対派”と捉えて嫌悪し、最後の一人となってもなお勤務時間中に国労バッジを着用する辻井を会社から排除しようと企図し、本件措置を行ったものと推認せざるを得ない」と述べている。労働委員会は、たった一人になろうと、辻井さんの行為は組合活動であり、それを嫌悪していじめることは、「労働組合法」違反の犯罪であると明確に認めている。
 36ページにわたる命令書では、不当労働行為の実態を克明に記しているが、なかでも決定的な証拠となったのは、1987年5月25日のJR東日本・松田昌士常務の以下の発言である。
「会社にとって必要な社員、必要でない社員のしゅん別は絶対に必要なのだ。会社の方針派と反対派が存在する限り、とくに東日本は別格だが、おだやかな労務政策をとる考えはない。反対派はしゅん別し断固として排除する。等距離外交など考えてもいない。処分、注意、処分、注意をくりかえし、それでも直らない場合は解雇する。人間を正しい方向へ向ける会社の努力が必要だ」(昭和62年度経営計画の考え方等説明会)。
 松田常務はその後、JR東日本のトップに上りつめた人物である。つまり、トップ自らが、「反対派を断固として排除する」とまで言い切っていたわけで、JRの異常な労務管理の根っこはここにあったのだ。また命令書では、バッジに対する攻撃が国労つぶしであったことを以下のように明確に認めている。
「会社は、設立当初から警告文の掲示までの間は、東労組を一企業一組合のパートナーとして両者間で極めて友好的な関係を築く一方、国労を労使関係における“反対派”と捉えて嫌悪し、組合バッジ着用者がほぼ国労組合員であることを把握した上で取外し指導を行い、国労バッジ着用が国労に長期的かつ致命的な打撃を与えることとなる仕組みを作り出し、これを実行して国労の弱体化を図ってきた」
 ここで言われていることは、労使協調のJR東労組だけを育成し、国労を排除する。そのために会社は、「国労に長期的かつ致命的な打撃を与える仕組みをつくった」と言っているわけだ。組合活動に支配介入する会社ぐるみの「犯罪行為」(不当労働行為)そのものである。実際、このバッジ攻撃は成果を上げ、JR発足当時5千600人の国労組合員がバッジを付けていたが、結局最後は辻井さん一人になってしまった。その間、国労は弱体化の道をたどる。会社の狙いは見事に果たされたのだ。
 しかし、辻井さんのたった一人のたたかいは、こうしたJR東日本の犯罪を再び白日のもとにさらけだした。アリが巨象の悪を突いたのだ。その意味でも、今回の地労委勝利命令は大きい。JR東日本はこの命令を受け止め、労務政策を転換すべきである。JALの「沈まぬ太陽」ではないが、異常な労務管理がもたらすものは、安全軽視の大事故である。ひたすら利益追求に走るJR東日本にストップをかけるためにも、この命令を大いに活かしたいものだ。
 なお、2月26日には勝利報告集会が行われる。ぜひ多くの参加を呼びかけたい。
 また、この文章では触れることができなかったが、最初は認識が浅かった労働委員会をここまで動かした弁護団・申し立て人の2年にわたる努力も大変なものだった、という。

(JRウォッチ 松原明)

英会話GABA「講師委託は偽装」の申立に勝利命令

 「マンツーマン英会話」の派手な広告で有名なGABA社は、語学全国大手の中でも唯一、「千名近い講師を、雇用とせず、委託=一人親方」と偽装しており、ゼネラルユニオンや全国一般全国協東京なんぶに「年休がない。保険に入れない」との相談が相次いでいた。これらの団交申入れを、当初会社は拒否しきれず、交渉が持たれてきたが、内容に関わると、「従業員でないから」と一切の要求を認めなかった。しかも会社は「以前から団交ではなかった」と、遡って言い出し、ゼネラルユニオンはこれを「不誠実団交」として不当労働行為申立を行ない、審問が開かれた。
 審問廷は、授業の時間・教室・研修・採用・教材・報酬などを克明に審理したのち、「講師は労働者」との判断を明確にした。一方、「交渉は、団交そのものであった」との判断で、救済申立を棄却したが、これは偽装請負認定を求めた労組の実質勝利を意味した。
 大阪府労委の「労働者性判断」の骨子は次の通りである。
 「業務委託契約の外形をとっているからといって、労働者性が否定されるものではなく、労働者とは、雇用契約下と同程度の使用従属関係にある者、労務供給契約下にある者というべきである。……インストラクターは、会社の組織に不可欠な労働力として組み込まれ、会社が一方的に決定した契約内容に基づいて、業務遂行上の会社の指揮・監督に従って、労務を提供し、その対価として報酬を受けていることから、会社との関係において労働者である」
 GABAの永年にわたる主張が,公式に完全否定された事により、誠実団交義務はもちろん、社会保険と雇用保険の加入義務、年休付与などの労基法などの違反なども一斉に確定した。
 GABA社に対し、ゼネラルユニオンは、「このままでは、健保・失業保険・未払賃金立替払など一切のセーフティネットもない」との警告書を、GABAと持株会社の大和SMBCキャピタルに送付した。だが、両社は再び団交を拒否し、1月8日中労委に「労働者性の判断を取消せ」の再申立をするというハイリスクの道を選んだ。
 全国一般全国協は2月1日、厚労省・文科省と、非正規労働者の社会保険・雇用保険や、偽装請負問題の交渉を実施したが、労働委員会命令にも従わないGABAへの行政指導も、その中心議題となった。また「個人請負だから」という詭弁で、あらゆる労働法を無視してきた悪質企業でもあるので、東京労働局・東京社会保険(年金)事務所・労基署・税務署などへ告発や確認請求のアクションも、2月から一斉に開始された。

(ゼネラルユニオン 山原克二)

韓国のMediACT存亡の危機に支援を

 MediACTは、レイバーネット日本の創立総会でも来賓にお招きした労働メディア活動家のキム・ミョンジュン氏のイニシアチブで2002年に設立されたメディアグループで、メディアセンターの運営を通じて労働運動のドキュメンタリーをはじめとする数多くの優れたドキュメンタリーや独立映画を生み出してきました。MediACTは、韓国内ではメディア教育や映像政策支援などに加え、パブリックアクセスの実現や、独立映画専門上映館の開館など、国際的なメディア運動の中でも大きな貢献をしてきました。また国際的なワークショップの開催などを通じ、東アジアの国際メディア活動の核心的な役割を果たし、日本でも多くのメディア活動家がMediACTを訪問しています(本誌05年5月号にも紹介記事を掲載)。
 ところが、金大中、盧武鉉と続いた比較的進歩的と見なされてきた政権が保守派の李明博政権に代わり、金大中・盧武鉉時代に誕生した制度や機構に対する攻撃が強まり、政府組織やマスメディアばかりでなく、多くの草の根市民運動や労働運動にまでその攻撃が及んでいます。そして今回、攻撃のターゲットになったのがMediACTです。
 MediACTは、政府傘下の映画振興委員会との契約により、資金的な支援で運営を続けてきましたが、昨年12月に従来の契約が公募に切り替えられ、第一次公募では「該当者なし」、そして先日行われた第二次公募では豊かな実績と経験を持つMediACTではなく、公募にあわせて急造された右派系のメディア団体が光化門の映像メディアセンターの運営者に選ばれたのです。そのため、MediACTは今月いっぱいでメディアセンターから退去しなければならなくなり、これまで続けてきたさまざまな事業も中断せざるを得ない状態になっています。
 これは、単に韓国内のひとつのメディアセンターの運営というだけの問題ではありません。まさに独裁政権下でのメディア規制で苦しんできた韓国の人々にとって、自由で民主的なメディアが、自由と民主主義にとっていかに重要か、そして自由なメディアを労働者・市民のレベルで支えるメディアセンターがどのような意味を持つかは自明でしょう。労働者・市民のメディア活動の基盤であるメディアセンターへの攻撃の背後には、人々の自由な活動の手段を奪おうとする魂胆が透けて見えます。そして、国際的な視野に立てば、MediACTの危機は国際的なメディア運動における東アジアでの核心の崩壊につながるという点でも、また、メディアを通じた国際的な労働者・市民の連帯を破壊するという意味でも、MediACTへの攻撃はわれわれに向けられた攻撃とも等しく、決して他人事ではありません。
 もちろん、今回の運営者変更が、公正な公募と運営者選定であると納得できるのであれば、運営者の変更そのものを非難することはできないでしょう。しかし、今回の運営者の変更につながった公募の過程は、その公正性がきわめて疑わしいものでした。契約満了の直前に公募が公表されたこと、実績も経験もなく、公募にあわせて急造されたメディア団体が選定されたこと、選定理由にハイビジョンや3D映像製作など、市民・労働メディアの本質とかけはなれた産業的理由があげられていることなど、あらゆる角度から見ても無理な選定であり、政治的な意図の下での不自然な選定と言わざるを得ません。
 以上のように、MediACTは国内的・国際的に優れた活動を続けてきたにもかかわらず、理由にもならないような理由で抹殺されようとしています。今回の公募を撤回し、MediACTが映像メディアセンターの運営を続けられるよう、多くの人が抗議の声を韓国の当局に届けていただければと思います。

(レーバーネット 安田幸弘)

21万の郵政非正規労働者の均等待遇と正社員化を

 郵政民営化から2年が経過しました。郵政グループで働く非正規社員は約21万2千人となり、郵便事業会社では約6割が非正規社員です。
 そのほとんどが年収200万円にも満たない、いわゆるワーキングプアといわれる状況で、正社員と同様の仕事や責任を負わされながら、まじめに働いても生活できない実態におかれています。
 とりわけ集配業務に携わる非正規社員は、正規社員と同様の労働実態にありながら、その労働条件は正規社員と比べ大きくかけ離れています。
労働基準法第3条では、社会的身分などを理由として賃金や労働時間など、労働条件の差別的扱いをしてはならないと定めています。
 改正パート法第8条では、業務内容・責任などの職務内容が正規社員と同等で、期間の定めのない労働契約(反復更新を含む)をしており、正規社員と同様の職務変更状況である非正規社員については、賃金の決定、教育訓練の実施など、その待遇について正規社員と差別的取り扱いをしてはならないと定めています。
 また、同法第12条では、正規社員への転換を推進する措置を講ずるよう定めています。
 郵政グループ各社が、こうしたルールにもとづき、以下の項目を実現するよう強く要請します。
(要請事項)
1.非正規社員の時給を最低でも1200円以上に引き上げること。
2.勤務時間や出勤日数削減をやめ、生活できる賃金を保障すること。
3.定期昇給、冬期、夏期休暇の付与、計画休暇制度など、正規社員並みの待遇を保障すること。
4.月給制社員への登用条件を大幅に緩和するなど、正規社員への登用制度を抜本的に改善すること。
5.非正規社員に対する不公正なスキル評価制度を抜本的に見直すこと。
6.非正規社員の解雇・雇い止め、「雇用調整」を行わないこと。

(NPO法人ゆうせい非正規労働センター)

1月31日浜松町海員会館で、「佐藤昌子さん、パナソニック電工派遣切り争議勝利解決支援御礼東京集会」が開かれた。

 全国一般全国協の組合員や派遣切りと闘い続けている非正規の仲間や労組も、ナショナルセンターの垣根を越え80人が集った。参加した女性たちの発言を通し、派遣労働に刻印された新たな女性差別としての側面が突き出された。韓国の女性の映画制作集団も参加した。

(松下知)

2010「ピースウォーク from 沖縄」成功の為に

 1月1日より沖縄・久高島から日本山妙法寺の石橋上人を先頭に「ピースウォークfrom沖縄」が出発しました。
 核廃絶、環境問題を掲げ、基地撤去・辺野古の環境保全から基地建設反対を唱え、目下、沖縄を経て九州をピースウォークしています。
 沖縄各地で、撤去に取り組む人達と交流し、1月23日には長崎に移動し市長からのメッセージを受取り、各地では自治体首長への要請もし、中国地方から関西に入り、5月に東京に着き、ニューヨーク国連本部では核拡散防止条約(NPT)再検討会議に核廃絶への思いをこめたウォークに引き継がれます。
 ピースウォークは掲げている目標を超えた大きな意義があると考えます。
 5月には普天間基地県内撤去の鳩山内閣の約束期限がきますし、アメリカとの従属的立場から対等・自立をもって50年を経た安保条約の中身が問われる時です。
 改憲を意図した国民投票法案は、5月18日が一区切りの日程に入ります。
 ピースウォークは、上記の大きな課題に立向かう国民の声を揚げることに必然的になります。そうである以上、平和を愛し、改憲を許さない大きな基盤づくりの運動に発展させる必要があります。
 まさに、その政治日程とダブル形でピースウォークがある以上、行進の性格もその影響を受けずにはいられません。
 全国的な課題としての性格がある以上、特定の宗教・政治党派やグループの運動ではありません。左右を問わず、平和を愛し、戦争国家にしない国民同意を作り上げる運動でもあります。
 普天間基地問題にしろ、憲法問題にしろ鳩山政権の”ふらつき”を云々するマスコミの論調はありますが、平和を希求する声が澎湃(ほうはい)と広がれば、一体となって平和国家を護持することになります。
 他にも「九条バンク」運動のように、一人ひとりが平和を求めて意思表示をする運動も、政党色を帯びた運動ではありません。今、私たちはどの様な平和な世界、日本を作るのかを、一人ひとりに問われているのです。
 平和、核廃絶、改憲阻止、基地撤去を、安保見直しに迄、この運動を全体で協同してやり抜こうではありませんか。

(ピースウォークfrom沖縄 実行委員会)

たたかいの現場から バックナンバー
たたかいの現場から 投稿について
「たたかいの現場から」の原稿を募集しています。各地での闘いの様子を原稿にしてお送りください。字数は800字前後でお願いします。
協同センター・労働情報 東京都千代田区三崎町2-13-5 影山ビル501号 Tel.03-6675-9095 Fax.03-6675-9097