労働情報No.860


たたかいの現場から
860号

マツダの「派遣切り」を違法と判決  「黙示の契約」認定し正社員化を命令

 今春闘の大きな柱であった非正規労働者の格差是正・権利確立が見失われようとする中で、画期的な判決が出された。
 マツダの山口県防府工場で、最大5年7ヵ月働いたあとリーマン・ショックの影響などで雇い止めをされた元派遣社員たち15人の「実質的に正社員として継続雇用されていたのに不当だ」との訴えに対し、山口地裁は、「派遣労働を常態化させないという法律の根幹を否定するものだ」と指摘し、正社員と認め、未払い賃金の支払いを命じる判決を言い渡した。
 労働者派遣法では、3年が限度とされる期間を終えた派遣社員を再び同じ職場に受け入れるには、前回の派遣労働終了から3ヵ月より長く空けることを義務づけている。しかしマツダでは、3年を迎える派遣労働者を3ヵ月と1日(後に6ヵ月に変更)だけ「サポート社員」として直接雇用し、その後、再び派遣社員に戻す方法で、長期間同じ職場で働かせていた。
 3月13日の判決で、山本善彦裁判長は、「マツダの方法は熟練した派遣社員の長期的な確保を目指したもので、派遣労働を常態化させないという法律の根幹を否定している。形式的な体裁は整えているが、実質はもはや労働者派遣とは言えない」と指摘し、原告のうち13人を正社員と認めた(2人はサポート社員経験がないとして棄却)。
 これまでの「派遣切り」裁判の判決は、松下PDP最高裁判決(09年12月)に基づき、派遣先会社などの違法性は認めても、損害賠償などにとどまるケースが多く、明確に正社員としての地位を確認した判決は画期的だ。
 今回の判決には注目すべき指摘が多々ある。第一に、派遣法違反であることを明確に指摘したこと。派遣労働は「臨時的・一時的業務」に限られ、「常用雇用の代替」ではないとの原則の上に立って実態を把握し、違法と判断した。第二に、マツダという派遣先の「サポート社員」制度が、脱法行為として「組織的かつ大々的」に実施され、さらには派遣労働者をランク付けして賃金を支払い、指揮命令関係が存在していたなどの実態をきびしく認定したこと。これによりこれまでなかなか認められなかった派遣先との「黙示の労働契約」の成立が認められた。第三には、これらの契約が「違法な労働者供給契約に該当し、公序良俗に反する無効な契約」であると認定したこと。
 この「黙示の労働契約」については、最高裁の松下PDPの偽装請負事件判決をもって、労働者派遣法の違反であっても「特段の事情」がないかぎり派遣労働者と派遣元との雇用関係が無効になることはないと、多くの裁判で否定され続けてきた。しかし今回の判決は、派遣労働者と派遣元との労働契約を無効とする「特段の事情がある」と判断し、最高裁判決を乗り越えることができた。
 リーマン・ショック後相次いだ「派遣切り」に、いまなお全国で60件以上の裁判が闘われている中での画期的な判決となった。しかし、ここに至る過程で09年6月に山口労働局長が、サポート社員制度の運用の一部が労働者派遣法に違反しているとして、同社を是正指導したり、日本共産党が国会質問で追及したにもかかわらず、マツダがかたくなに解決を拒否してきた経緯もある。
 おそらくマツダは、控訴審で「派遣社員とサポート社員を繰り返すことには労働者自身が同意していた」などと強く主張し、松下PDP事件同様の逆転を策すだろう。マツダの対応は総資本の意を汲んだものであり、泣き寝入りを強いられてきた非正規労働者にとって、重要な闘いとなっている。控訴審での勝利に向けて、全国の支援が求められている。

水谷研次(編集部)

最高裁不当判決糾弾! 柳川秀夫さん持分の一坪共有地裁判

 2月28日、最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は、柳川秀夫さん(三里塚反対同盟世話人)の成田空港内にある一坪共有地に関する裁判で一審(2011年9月22日)、二審(12年8月9日)の「成田空港会社の単独所有を認める」不当判決を支持し、上告を棄却した。全面的価格賠償方式(地権者との合意もなく一方的に金銭補償により土地強奪ができる悪法)を適用したもの。柳川さんの横堀土地持分(約116u、15分の3)に720万6千507円、木の根の土地持分(1.5u、780分の1)に12万9千246円を一方的に支払うことによって「所有権の移転」と称する土地強奪を認めた。
 しかし判決の根拠は、きわめて希薄なものでしかない。柳川さんの横堀共有地持分は15分の3の所有であり、空港会社が「大部分の持ち分を所有している」という評価は当てはまらない。千葉地裁が言う、「共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存する」のである。この現実を無視して「被告が賠償金を取得する方法で分割することが相当である」という結論ありきで判決を組み立てたと言わざるをえない。
 そして運輸省と公団が、農民の意志を無視し国家権力の暴力を使って推し進める空港建設のやり方をしないという反対同盟との約束違反であり、裁判を通した「強制収用」論を排除した。
 空港会社は、羽田空港新滑走路供用開始による成田空港の地位低下の挽回を狙(ねら)って14年度中の30万回離発着を目論んでいる。更に離着陸制限時間緩和(午後11時〜午前6時を一時間延長)に向けて周辺住民(5騒音地区と芝山町内7地区)に対するアリバイ的な説明会を行った。いずれも不安や危惧の声が出ており、成田市下総地区は「絶対反対」と説明会すら拒否しているほどだ。空港会社による闘う農民と空港周辺住民の人権と生活・環境権破壊を許さず、空港内拠点である木の根ペンションとプール、横堀大鉄塔と案山子亭、一坪共有地を守り抜こう。

山下一夫(三里塚空港に反対する連絡会)

 

日日刻刻  連合4年ぶりにデモ(3・1〜7)

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