たたかいの現場から
878+9号

「公契約条例」制定に向け動きだした郡山市
      キーワードは規制ではなく、「公契約規整」

 いわゆる「公契約条例」とは、自治体が発注する建設工事や清掃業務などで働く労働者の賃金額を規定する条例である。受注した事業者は自治体との契約で、下請けの労働者に対しても、条例で定められた金額以上の賃金を支払う義務を負うことになる。


 「公契約条例」が注目されることになったのは、極端な民間委託を進めた尼崎市で、委託労働者が立ち上がったことに端を発する。雇用環境の悪化による市民サービスの低下に危機感を抱いた尼崎市議会の議員が有志で、08年12月に公契約条例を議会に提案した。議案は否決されたが、次の年の9月に、野田市で全国初となる公契約条例が制定され、流れは完全に引き継がれた。その後川崎市や多摩市など6市で制定され現在に至っている。


 郡山市で、私たちが地域の労働者、市民と「郡山市公契約条例を考える会」を作り、公契約条例制定に向けた取り組みを始めたのもこの時期と重なる。
 当時市議会では議会ごとに公契約条例の制定を求める意見が出され、また全建総連も市議会に対する請願活動を行っていた。市職員の中で嘱託職員や臨時職員など非正規職員の割合が4分の1を占めるまでになり(現在は3割を超える)、学校給食や学校用務員などの業務が次々と民間委託化されていたことが背景にある。
 学校用務員の委託費についてみると、委託が始まった05年から毎年のようにダンピングされ4年目で25%まで切り下げられている。
 私たちの活動は、10年の9月議会に“公契約条例制定の検討を求める請願”となって実を結んだ。4会派から賛同を得られたものの、最大会派から「国の法整備を待つ」の言に阻まれて可決とはならなかった。


 震災により運動は休止を余儀なくされたが、福島県内で12年から始まった除染事業に関して、除染労働者へのピンはねの問題が浮上し、特殊勤務手当不払いの闘いを進める労働者の間から公契約条例制定を求める意見が出始めた。
 そんな折、この4月に新しく就任した市長が、議会でも公契約条例の制定に前向きな発言をし、私たちの運動にも再び火が点いた。市長との意見交換会で、「公契約条例」のパブリシティ化を痛感し、11月28日の市民学習会の開催へと歩みを進めた。


 学習会では、川崎市、多摩市、相模原市の3市で公契約条例の策定に直接携わった古川景一弁護士が講師を務め、学校用務員や除染労働者など50人余りが参加した。

 古川弁護士は、「公契約条例制定の目的は、巷間で言われているワーキングプア対策に限るものではなく、低賃金を強いるダンピング受注を排除し、公共サービスの品質確保と公正競争を実現することにある。民法の“契約自由の原則”に基づき、自治体と事業者が、対等な関係で契約を結ぶことで、履行の義務が双方に生じるのであって、一方が他方に罰則を課す公権力的規制の考え方とは本質的に異なる」として、公契約規制ではなく公契約規整という言葉でそれを表現した。


 また「かつて日本でも“公契約規整”が適用された事例がある。戦後間もなく、GHQが軍施設関連労働者に適用したが、日本政府は、国内法を整備せず、生かされることなく終わった。

 それはなぜか。受注額の多寡(たか)のみで発注者を決める経済性原則が支配的で、契約によって社会政策(賃金額の決定など)を実現するという考え方が封じ込まれたためだ。その影響は現在にまで及び、ダンピング受注が放置され、公共サービスの劣化につながった」と、公契約規整に基づく条例制定の必要性を訴えた。


 最後に、「条例制定の分岐点は、首長の決断にかかるが、地元事業者の賛同がなければできない。準備段階から労使で知恵を出し合うことが必要である。」と講演を締めくくった。

 会場の学校用務員や除染労働者から質問や意見が出され、講師との間で活発な議論が交わされた。この学習会を契機として、広汎な市民の参加による運動へと次なるステップを踏み出したい。

 

佐藤 隆志(自治労郡山市職労代表)

 

ブラック企業ワタミは遺族に謝罪せよ!
  ワタミ過労死遺族がワタミと渡邉美樹参議院議員らを提訴

 居酒屋チェーン「和民」で正社員だった森美菜さん(当時26歳)が入社2ヵ月後の2008年6月に自殺し、12年2月に国が過労による労災と認定した問題で、遺族である両親の豪さんと祐子さん(いずれも東部労組組合員)が、ワタミとその社長だった渡邉美樹参議院議員らに対し、12月9日、森さんの死亡は会社と経営者らの安全配慮義務違反に原因があるとして約1億5300万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。


 裁判の被告は、森さんが雇用されていたワタミフードサービスと親会社のワタミ、ワタミフードサービス代表取締役(当時)の栗原聡氏、ワタミ人材開発本部人事部統括本部長(当時)の小林典史氏、ワタミグループ創業者でワタミ代表取締役(当時)だった渡邉氏の5者。


 今回の提訴のポイントは、会社だけではなく経営者個人を会社法429条1項などで訴えた点である。とくに渡邉氏は「24時間365日死ぬまで働け」の理念集を称揚するなどワタミの過重労働を推進してきた精神的支柱でもあり、その責任は免れない。
 もう一つのポイントは「懲罰的慰謝料」を請求に組み込んだ点である。日本ではまだ前例はないが、長時間労働をなくすよりも賠償金を払った方が安くつくという考え方が企業側にある以上、制裁的な慰謝料を払わせる社会的意義は大きい。
 もとより遺族が求めているのは金銭ではなく、長女がわずか2ヵ月で命を失わなければならなかったワタミの労働実態の解明にある。


 遺族は東部労組加入後、12年9月にワタミ経営者との交渉を求めたが、会社側は一切応じることなく、渡邉氏に至っては恥知らずにも自民党公認で同7月の参院選に立候補した。これに対して東部労組は遺族とともに自民党本部前で抗議アピール行動を行った。
 また、遺族はワタミ側が申し立てた民事調停に1年間応じてきたが、13年11月に調停不成立=決裂した。

 ワタミ側の申し立ての趣旨は、損害賠償金を確定してほしいという一点のみ。過労死の責任も認めないし、謝罪もしないし、経営者が面談にも応じないにもかかわらず「お金は払う」と言うのである。そんなことで納得できるわけがない。


 提訴当日の記者会見で、豪さんは「異常な労働実態には渡邉美樹氏に原因がある。『24時間365日死ぬまで働け』という言葉をぬけぬけと言っているが、そうした言葉を言えない状況を作っていきたい」と話した。

 祐子さんは「娘の死と向き合わないワタミは何も反省していないし変わっていない。ワタミの中の人にも自分がどういう状況に置かれているのかを考えてほしい」と訴えた。

 

須田 光照(全国一般東京東部労組書記長)

 

 

日弁連と労働者・市民が連帯して雇用と貧困問題の解決を決意

 「働いても働いても生活はよくならない。むしろ、きつくなっています。皆さん、声を上げていきましょう」(東京東部労組メトロコマース支部委員長・後呂良子さん)

 冴え渡る空の真ん中に月が輝く。12月13日夜、冷え込みの中の日比谷野外音楽堂で「労働法制の規制緩和と貧困問題を考える市民大集会」が開かれた。主催は日弁連。連合、全労連、全労協のほか中立系労組、労働弁護団のほか、市民団体からも多数が集まり、参加者2千人と発表された。主催者の指示として旗、のぼりが一切ない集会だったが、冷たい風をはね返そうと、登壇者の熱い発言が続いた。


 山岸憲司日弁連会長は開会あいさつで「非正規労働と貧困の問題は、今日ますます深刻になっています」と指摘、「さらなる規制緩和によって、不安定・低賃金雇用の拡大や長時間労働、過労死、過労自殺の問題がさらに深刻化する恐れがあります。労働規制の逆流現象が起きており、労働法制は、かつてないほどの大きな危機を迎えています」と危機感を示し、雇用・貧困問題解決への日弁連としての決意を表明した。


 続いて、西谷敏大阪市立大学名誉教授、竹信三恵子和光大学教授は安倍政権が進める政策を厳しく批判。当事者の訴えとしてマツダ派遣切り訴訟原告の佐藤次徳さん、後呂さんに続いて発言した全国ユニオンパルシステム支部の酒井桂さんは、派遣労働の実態について「人としての扱いではありません。格差社会ならぬ差別社会です」と力を込めた。


 各団体からは連合、全建総連、全港湾、全労連、全労協の代表のほか、自立生活サポートセンターもやいの稲葉剛さん、しんぐるまざーず・ふぉーらむの赤石千衣子さん、長野一般労組の平谷哲治さん、大阪ユニオンネットの垣沼洋輔さんが発言した。

 稲葉さんは「この寒さの中、路上で寝なければならない人がいる」と語り始め、「派遣切りの嵐を繰り返してはいけない」と強調。赤石さんは1日に2つも3つも仕事を掛け持ちして働く女性たちの実情を紹介し、「一番川下にいるシングルマザーが生き生きと暮らせる社会でなければならない」と訴えた。

 労働団体の代表からは、日弁連がこのようなナショナルセンターの枠を超えた集会を主催して労働界、市民の連帯の場を設けたことを評価する発言が続いた。

 集会の後、有志の実行委員会主催で12台の宣伝カーで区切られたデモの列が銀座の街に繰り出し、「派遣法の改悪は許さないぞ」「安倍政権の雇用破壊は許さないぞ」とシュプレヒコールがこだました。

 

米倉 外昭(ジャーナリスト/新聞労連副委員長)

 

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