労働情報No.856


アジア@世界
喜多幡 佳秀・訳(APWSL日本)
856号

インド「集団レイプ事件に怒りのデモ」

 12月16日(日)にデリーで、市内を運行するバスの中で集団レイプ事件が発生した。被害者の女性(大学生)は鉄棒で殴られ、レイプされた後、バスから投げ捨てられ、病院に運ばれ、その後、シンガポールで治療を受けていたが、同29日シンガポールの病院で死亡した。
 デリーでは、この事件への怒りと、相次ぐレイプ事件に手を拱(こまね)いてきた市当局・警察への抗議デモが連日行われており、デモに対する弾圧への批判が高まっている。
同19日、全インド進歩的女性協会(AIPWA)が、デリー市長辞任要求の市長宅に向けたデモを呼びかけた。警官隊は放水等でデモ隊を阻止した。AIPWA事務局長のカビタ・クリシュナンさんは次のように述べている。
 「シェイラ・ディクシット市長は、事件が市営バスではなく、民間のバスで起こったのだから自分に責任はないと言っている。しかし、鉄棒を積み、レイプ加害者を乗せたバスが何の規制もなく市内を自由に運行し、いつでもどこでも客を乗せることができるとしたら、それは市長の責任だ。
 この市長は08年9月にジャーナリストのソウミヤさんが殺された時にも、『(彼女が)午前3時に外出していたのだとすれば、あまりにも冒険的だ』と発言している。私たちがここに集まったのは、『女性たちは冒険的である権利がある。服装や、外出に適した時間や、何人のエスコートが必要かを指図しないでほしい』と言うためだ」。
 ニーラジュ・クマール警察長官は任命時の記者会見で、レイプ事件の多くは顔見知りによるものであり、『警察が何かできるだろうか』と発言した。私たちは警察にレイプを防止するよう求めているのではない。加害者の検挙率が1971年には46%だったのが現在では26%になっているが、これは誰の責任なのか?被害者がデリー警察に訴えたとき、警察官は告訴しないように説得する。これは多くの女性が経験していることだ。
 彼はまた、別の記者会見で『女性は一人で出歩くべきではない。午前2時に外出していて、警察官が守ってくれると期待するべきでない』と発言している。
 今回の事件は、深夜に起こったのでもなく、被害者はボーイフレンドと一緒だった。しかし、そのことが重要なのではない。たとえ女性が深夜に、一人で外出していたとしても、なぜ、『仕事で遅くなったから』とか、『メディア関係の仕事をしているから』などと言い訳をしなければならないのか? 単に外を歩きたかったとか、たばこを買いに外に出たことで責められなければならないのだろうか?
 女性には自由に行動する権利がある。恐怖のない自由こそ、私たちが守り、尊重する必要があるものである。
 そのことを強調するのは、女性について、『安全』という言葉が使われ過ぎているからだ。私たちは親からも、近所の人たちからも、校長先生からも、いつも聞かされてきた。変わった服装をせず、気ままに行動しなければ安全でいられると。私たちはこのような考え方を拒否する。
 デリー警察が女性への暴力をなくすために行っている広告キャンペーンに女性は登場しない。代わりに、映画スターのファルハン・アクタルが『男になろう。僕と一緒に、女性を守ろう』と呼びかけている。このようなマチスモ(「男らしさ」)は問題の解決ではなく、むしろ問題の根本である。
 この国では、女性の運動団体を除けば全ての政府機関、警察、政党、裁判所が『女性の安全』について語る時には家父長主義の観点からの理解に基づいている。女性が恐怖のない自由の下で生きることを擁護している者は誰もいない。
 デモはこれからも続き、拡大するだろうし、そこにこそ解決の道がある。監視カメラや死刑判決や強制的去勢で解決するのではない。怒りは正当だが、加害者を死刑にという主張には危険を感じる。しかし、レイプに関する法律に欠陥が多いことも事実である。
 昨日、私はテレビでスシマ・スワラジ(人民党党首)の国会での発言を聞いて失望し、どうしても一言言いたいと思った。彼女は『もし被害者が生き延びても、生きる屍のようになるだろう』と言った。なぜそんなことが言えるのか? 彼女が生き延びるなら、私は彼女がまっすぐに前を見て生きるだろうと信じる。レイプ犯たちを前にそうしたようにである。彼女は闘った。性的暴力と闘った。だから、加害者たちは『見せしめに』レイプしたのである。彼女は病院で意識を回復した時に、加害者は逮捕されたかと尋ねたという。彼女の闘う意志は生きている。彼女は『生きる屍』なんかではない。私たちは彼女の意志を称える。そして、レイプのサバイバーたちは決して『生きる屍』ではない。
 最後に、政治とレイプは分けて考えるべきだと言う人たちに言いたい。私たちの国にはレイプを正当化する文化がある。『女性が挑発的な服装をするからレイプが起こる』と発言するパルシンギルのような人物(元パンジャブ州警察長官)が多くの警察幹部に支持されている。このような状況を変えるためには、女性への暴力の問題を政治化する必要がある。女性がどのような対策を求めているかを知らなければならない。国会の中で嘘の涙を流したり、『犯人を死刑にせよ』と叫ぶだけでは解決にならない。レイプ犯を死刑にするべきだと言っている人民党の支持者たちが、ジーンズを穿いている少女や、少数民族の男性と恋愛関係にある少女たちを襲撃しているというのは滑稽なことだ。私たちはこういうことに対抗する政治を作り出す必要がある」。(「tehelka.com」12月21日付より抄訳)


 インドにおけるエコロジー運動とフェミニズム運動のリーダーの一人、ヴァンダナ・シヴァさんは女性への暴力は家父長制と同じぐらい古くからの問題だが、近年、新自由主義的経済改革に伴い、ますます広がっていると指摘。国家犯罪記録局(NCRB)の統計においても、レイプ事件の件数が1971年に比し8.7倍になっている。デリーはインドにおける「レイプの首都」と呼ばれており、2011年だけで4千489件発生している。
 シヴァさんによると、1990年以降進められてきた経済改革の中で、(1)経済成長至上主義により、女性の労働の価値や、経済・社会への貢献が低く評価されるようになっている、(2)女性が土地、森林、水、種子などの生活手段から切り離され、無力化されている、(3)民主主義が侵食され、政治が私物化されている、(4)すべてのものが商品化される中で、女性も商品化されていることが、女性への暴力の増加に深く関係していると指摘し、「この事件の被害者は、社会革命の引き金を引いた。私たちはそれを継続し、深化させ、拡大しなければならない」述べている。(「Zネット」、12月30日付)


 作家のアルンダティ・ロイさんは、この国の多くの地域でレイプは「封建的な所有権の問題」と考えられており、(レイプは日常的に起こっているにも関わらず)今回の事件が大きな注目を受けたのは被害者が裕福な中産階級の女性だったからだと指摘している。ロイさんによると「インドでは全社会的に女性に対する態度が変わらなければならない。法律を変えるだけでは、守られるのは中産階級の女性だけだからだ」(「BBCニュース」12月23日)。

 

 

バングラデシュ
 「火災を起こした工場の所有者逮捕を要求してヒューマンチェーン」

 1月9日昼に、全国衣料労働者連盟(NGWF)をはじめとする労働組合の組合員約百人が、昨年11月24日に火災で112人の犠牲者を出したタズリーン・ファッション社の所有者の逮捕を要求して、ダッカのプレスクラブ前でヒューマンチェーンを行った(火災については本誌12月15日号を参照)。
 内務省と議会の労働委員会による調査で、同社の所有者が112人の死亡に責任があると断定され、関連する公訴が行われているにも関わらず、同社の所有者はまだ逮捕されていない。労働者たちは、所有者の逮捕のほか、犠牲者の完全なリストの作成と遺族への補償、衣料工場の安全のための緊急の措置の実施、経営団体・政府・受注元企業が労働組合と協力して安全な職場を実現することを要求している。(NGWFの1月9日付けプレスリリースより)

 

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