たたかいの現場から
834号

またしても出された不当な最高裁判決

 東京都教育委員会(以下、都教委)が、2003年に発出した「10・23通達」に関する最高裁判決が2月9日に出され、またしても「棄却」された。「日の丸・君が代」関連の最高裁判決は、昨年より集中的に出され、今回の「予防訴訟」(「国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟」)で、現在最高裁に係属する全ての訴訟の判決が出されたことになる。  昨年来の判決では、@「通達」及び「職務命令」は合憲であり、憲法19条の「思想良心の自由」を侵害しない、A処分について、「戒告」は裁量権の範囲内であり処分は相当であること、B「減給」「停職」の二人の処分は取消すが、「停職3ヵ月」の一人は秩序の維持の基準から見て相当である、C裁量権の基準は「学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から」判断される、とするものであった。そして今回の予防訴訟判決では、予防的訴訟についての判断に加え、多くの意見が付された。それを以下に見る。

*新しい闘いの方法としての「予防訴訟」
 「予防訴訟」は、2004年1月に403人の原告で都教委を相手どり提訴した。2003年に都教委の発出した「10・23通達」とそれに基づく「職務命令」に従う義務のないことを確認する訴訟であった。通常は処分をされてその撤回を求めて訴訟が行われるのであるが、この訴訟は事前に処分を回避するための訴訟であることから予防的訴訟と言われてきた。
 当時は、明文化されていなかったことから「無名抗告訴訟」と呼ばれてきたために、訴訟として成立するか否かが最大の課題であるとされてきた。そして、2004年に行政事件訴訟法が改正され、この訴訟の形式が明文化された。2006年9月の同訴訟東京地裁判決(難波裁判長)は、この訴訟の形式を認め、原告の全面勝訴を判示したのである。
 ところが同訴訟の控訴審は、「通達の取消し」が可能であるとして、訴訟要件の点で却下した。こうして最高裁では、「日の丸・君が代」を強制する都教委「通達」の是非のみならず、この予防的訴訟の訴訟要件が課題となっていた。
 今回2月9日の判決では、この予防的訴訟の訴訟形式について是認した。最高裁として行政処分に対する国民の訴訟権として正式に認定したのである。しかし本件については、「通達」も「職務命令」も合憲であることを理由に「棄却」した不当な判決であった。
 都教委「通達」に対する「日の丸・君が代」強制に対する闘いは、この「予防訴訟」を抜きには大衆的な広がりを持つことはなかった。「予防訴訟」は、処分されなくても「通達に反対である」ことの意識を持つ教職員ならば誰でも原告になることができた。それが403人の大型訴訟にまで広がっていったのである。そしてこの原告が予備軍となり、毎年次々と新しい不起立者が現れ、被処分者の累計は437人にまでなっている。この闘いの教訓は大きく、行政処分(攻撃)に対する闘いの方法として、今後の闘いの手段として注目される。その意味では、今回の最高裁判決が予防的訴訟を認定したのは大きい。

*都教委へ紛争解決の方策を求めた最高裁判官による付言
 今回の「予防訴訟」最高裁判決のもう一つの特徴は、裁判官多数による付言が出されたことだ。第一小法廷5人の裁判官の内、1人が反対意見を述べ、3人が補足意見を述べた。宮川光治裁判長は、昨年からの判決で貴重な反対意見を述べ続けてきたが、今回もまた、憲法・教育基本法の原則に基づいた司法の良心を示すものであった。注目されるのは、あるべき教育の目標達成のために「教員における精神の自由は取り分けて尊重されなければならない」と、踏み込んだ判断を行っていることだ。
 そして、桜井龍子裁判官は、1月16日の判決でも補足意見で「教育の現場においてこのような紛争が繰り返される状態を一日も早く解消し、これまでにも増して自由で闊達な教育が実施されていくことが切に望まれる」とし、「不正常な現状を打開」するよう教育関係者が解決に向けて努力することを要望すると述べている。今回の予防訴訟判決でも同趣旨が示されていると同時に、他に横田尤孝裁判官と金築誠志裁判官も、同趣旨の意見を述べている。これは文脈の趣旨からすれば、都教委に向けられたものであることは明らかであり、紛争を一刻も早く解決するよう都教委に示したのである。都教委は、「通達」と「職務命令」を速やかに撤回すべきである。

永井栄俊(「日の丸・君が代」強制反対予防訴訟をすすめる会共同代表)

「国鉄闘争を継承する会」が発足

 奇しくも、国鉄当局による採用差別が強行された2月16日、11時よりJR東日本が犯した信濃川不正取水問題をめぐる株主代表訴訟の第1回目の裁判が東京地裁で行われた。この訴訟は、2008年に不正取水を行って取水許可を取り消されたJR東日本が、取水権を回復するため関係自治体に57億円の寄付をした行為が会社に損害を与えたとして、当時の清野智社長など20名に57億円の支払いを求めたものである。
 また、同日の夕方には「国鉄闘争を継承する会」の結成総会が、飯田橋SKプラザで開催された。この会の目的は@JR東日本の株主代表訴訟裁判支援、AJR各社の安全問題、法令違反問題などの監視、B事業体の商品販売支援、C国鉄闘争講演への講師派遣、D労働相談、E争議支援他とされ、役員として、二瓶久勝・元国鉄闘争共闘会議議長を代表に、副代表には、武藤弘道(都労連委員長)・加藤晋介(弁護士)・吉田壽(東京清掃労組委員長)・小林春彦(国労千葉地本委員長)の4氏が、そして事務局長には内田泰博(元旭川闘争団)氏が選出された。総会は、今度こそJR東日本に責任をとらせるという一同の、気合いの入った団結ガンバローで締めくくった。

(本誌編集部)

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