たたかいの現場から
871号

景品水増し表示の秋田書店  不正告発の社員を懲戒解雇

 秋田書店が漫画雑誌の読者プレゼントで景品の水増し表示をしていたことが、消費者庁によって明らかにされた。

 水増し表示は許さるれことではないが、それと同じぐらい反響を呼んでいるのが、同社が不正を告発した社員を懲戒解雇していたことが報道されたことだ。
 会社側は「元社員は、あたかも社内の不正を指摘し、改善を訴えたために解雇されたなどと主張しておりますが、解雇の理由は、元社員が賞品をほしいままに不法に窃取(せっしゅ)したことによるものです」(同社HPより)と全面的に反論している。これが事実であれば、不正は女性に原因があったということになる。しかし、もし、そうでないのなら、同社は社員の抗議に耳をかさず、不正の罪をかぶせて解雇をした、とんでもない「ブラック会社」である。


 消費者庁は8月20日、景品表示法違反(有利誤認)で措置命令を出した。同社は命令を受け入れ、HPに「読者や関係者に深くおわびし、再発防止に取り組む」との謝罪文を公表した。
 同社に不当に懲戒解雇されたと訴えているのは、入社以来、不正のあった「ミステリーボニータ」などで4年以上プレゼントの担当をしていた女性の元社員(28)。「プレゼントを窃取」したなどとして12年2月29日に懲戒解雇されている。

 女性や女性が加入する労働組合、首都圏青年ユニオンによれば、女性はプレゼント担当になった時、プレゼントは表示より少ないこと、本当の当選者以外の名前は偽造して掲載することなどを引き継いだ。
 例えば、担当していた「ボニータ」では、1号のプレゼントの総数は100人を超えるが、予算は8万円で、全部をまかなえる金額ではなかった。
 女性は「不正はやめるべき」とたびたび上司に訴えたが、「会社にいたかったら文句を言わずに仕事をしろ」と取り合ってもらえなかった。
 パワハラもあり、睡眠障害などを発症し、女性は11年9月から休職し、休職中の懲戒解雇だったというのだ。
 同ユニオンの神部紅事務局次長は「不正を強制されたのに、それに抗議した彼女に罪をなすりつけた」と憤る。


 懲戒解雇が報道されると、会社側は前述の社告のように否定し、対決姿勢をあらわにした。しかし、消費者庁が不正があったと指摘し、同社も認めた期間に注目すると、彼女が担当していた「ボニータ」では、11年2月号から12年5月号までとある。11年9月に彼女が休職した後も延々と複数媒体で続いていたことへの説明はない。
 ユニオン側も、解雇撤回の裁判を提訴し、徹底的に争う姿勢を示している。いまだ、会見も開かず、責任者の処分なども明らかにしない秋田書店だが、裁判の過程で不正の手口や実情がつまびらかになるものと見られる。
 ちなみに、消費者庁の幹部は記者会見で「不正は個人が行ったものなのか」の問いに「個人の不正ではない。会社が組織ぐるみで行ったものです」と明言した。こちらの方ではすでに結論が出ているようだ。

東海林 智(ジャーナリスト)

続く危機、次世代想い  「さようなら原発講演会」に2050人

 9月1日、東京・日比谷公会堂で「さようなら原発講演会 つながろうフクシマ!くりかえすな原発震災」が開催された。主催は「さようなら原発」1千万署名市民の会。集会には会場を満員にする2050人が集まった。


 女優の木内みどりさんが司会を務めた集会では、最初に鎌田慧さんが開会のあいさつ。鎌田さんは90年前のこの日に起きた関東大震災の惨害の中で、朝鮮人・中国人や社会主義者の虐殺が行われたことを指摘し、安倍政権の軍備拡大と改憲の動きに抵抗する運動と、脱原発の運動が合流する必要を訴えた。
 「不屈の民」、「グレゴリオ聖歌」から「相馬盆歌」までの幅広いレパートリーで繰り広げられたジンタらムータのライブで盛り上がった後、福島からの報告をいわき市議会議員の佐藤和良さんが行った。
 佐藤さんは、福島は今でも15万人にのぼる人びとが原発事故のために故郷を追われ、地域のコミュニティーは破壊されたままである、と語り、仮設をまわった心理療法士の報告では多くの人が抑うつ状態にある、と訴えた。
 佐藤さんはさらに、高濃度汚染水の垂れ流し、海洋流出の事実を参院選後になって東電・国が明らかにした「出来レース」や、国際原子力マフィアに他ならないIAEAが海洋投棄を認めるのではないか、と憶測されていることに怒りを表明した。佐藤さんは、8月26日に原発事故被災者救援を求める全国運動を立ちあげた直後に、一年以上店ざらしになっていた原発事故子ども・被災者支援法の「基本方針」が復興庁によって出されたが、その中で本来年間追加被ばく線量1mSv/h以上の地域に適用すべき「支援対象区域」が県内33市町村に限定されたことを批判した。佐藤さんは,これは「差別と分断の基本方針」だと述べた。


 次に大江健三郎さんの講演。大江さんは、亡くなった井上ひさしと加藤周一に思いを馳せつつ、作家ミラン・クンデラの「エサンシエル」(エッセンシャル)という言葉に託して「人間として最も中心的なモラルとは何か」というテーマを取り上げ「放射能によって次の世代に引き継ぐことができない世界にしてはならない」ことを強調した。


 休憩後、「ザ・ニュースペーパー」の「安倍晋三」、「小泉純一郎」によるコントの後、小出裕章さん(京大原子炉実験所助教)による講演「フクシマを忘れない、すべてがつながる課題」。
 小出さんは、「事故は全く収束していない。危機はつづく」と切り出しながら、大量の汚染水を漏出させながら果てしなく放射能を封じ込める作業によって多くの労働者被ばくを生みだし、しかもこの作業はこの先何十年も続く」とリアルな現実を指摘した。
 すでに広島原発1万4千発分のセシウム137を大気中に放出した、と指摘した小出さんは、本来年間1mSv/h以上の区域を放射線管理区域とすべき政府が、それを守らないのは「法治国家ではない」と批判。こうした日本の原発政策が、核兵器開発能力の維持を基本政策としてきた政府の一貫した政策に根拠があると指摘した。そして昨年原子力基本法を改定して「安全保障」の観点を付加した日本の原発・核兵器政策と、憲法改悪の関連をも強調した。


 小出さんの講演に続いて、一千万人署名の呼びかけ人から澤地久枝さん、内橋克人さん、落合恵子さんが発言し、熱気あふれるこの日の集会を終えた。
 日比谷公会堂での集会後、小出さんをはじめ多くの参加者がこの日夕刻から首相官邸前で行われた首都圏反原発連合の行動にも合流した。

国富 建治(運営委員)

巨大企業のクーデター」に対抗  TPP合意阻止へ智恵出し合う

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に反対する運動を各地で進めている個人や団体が集まる「TPPに反対する人々の運動」(菅野芳秀さん、山下惣一さんら共同代表)は、8月31日に都内で、今後の運動をどう進めるかを話し合う「寄り合い」を開いた。
 同運動は、2010年10月の菅直人首相(当時)のTPP参加検討表明を受け、同年12月にいち早く反対運動を呼びかけて結成。以来、集会や国際シンポジウム、連鎖地域集会、学習会を積み重ねてきた。
 しかし、安倍内閣は今年3月にTPP交渉参加を強行し、7月から交渉のテーブルについている。早ければ今年10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、大枠合意がなされるとも言われている。こうした情勢を受け、各地の活動者など50人以上が参加し討議を行った。


 最初に、8月のブルネイでのTPP交渉会合について、現地で情報収集と反対行動を行った日本消費者連盟の山浦康明共同代表や「TPP阻止国民会議」事務局の石原富雄さんが報告。
 また、各地から、「JAも参加して国際シンポを開いた」(新潟)、「TPP反対と参議院選挙を結んで取り組んだ」(山形)、「労組の大会のスローガンにTPP反対を打ち出す」(大阪)などの活動や、「官邸前で月に1回、TPP反対でアクションをして、毎回多くの市民が参加している」「昨年から、TPPに関する市民と政府の意見交換会を開いてきたが、自民党政権になって困難になっている」などの報告があった。

 労働組合からは、東京都労働組合連合会の武藤弘道委員長が「6月に都労連としてTPP反対を決め、連合内でも9単産が声明を出すなど、労組でも運動が広がっている。労働の規制緩和の動きなどとも連動して活動を進めたい」と述べた。


 討議の中で、1.医療や社会保障、労働、食の安全などの問題とTPPを結びつけた運動づくり、2.秘密交渉の壁を破り、情報公開をさせる、3.反グローバリゼーションの国際共同運動とつながること、などを確認。具体的運動として、短期的には、年内の交渉合意を阻止する闘いや、協定案が国会に出された時の批准阻止の運動を展開する。

 また、並行して生活や働く場に拠点を置いたTPP・新自由主義に対峙する陣形を作っていくことも提起された。最後に「TPPは巨大企業による国の乗っ取り、クーデターだ。腹をくくった闘いをしよう」(菅野芳秀共同代表)と決意を固め合った。


 当面の取り組みでは、9月14日に、TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会やTPPに反対する弁護士ネットワーク、主婦連合会主催の「シンポジウム このまま進めて大丈夫なの?TPP交渉」(文京シビックホール)、同19日のタイ農民活動家のバムルン・カヨタさんの「アジアの自由貿易の動きと農民」の講座(連合会館)、28日のパルシステム生協連合会と「人々の運動」が共催する「日韓シンポジウム」(全電通会館)、さらに10月〜12月にかけて、TPPと暮らし・地域を考える連続講座などが予定されている。

 

市村 忠文(TPPに反対する人々の運動)

 

のどかな山村に爆音と危険  島根県浜田市で反オスプレイ集会

 8月17日、広島から60キロほどの中国山地の山あいの島根県浜田市旭町で「オスプレイの配備と米軍機低空飛行を許さない市民ネットワーク」が集会を開いた。講師はNPOピースデポ代表の湯浅さん。湯浅さん自身も40年余りを広島で過ごし、この低空飛行訓練問題を積極的に取り組んできた一人だ。


 旭町はここ数年、米軍機の低空飛行訓練が大変な問題になっており、実際の映像が浜田市旭支所職員から紹介された。

 のどかな山村に突然、戦闘機の爆音と共に爆発音が響き渡る。町内にある刑務所を攻撃目標にした対地攻撃訓練と思われる音だ。急降下して模擬爆撃後、エンジン全開で上昇していく時の現象で、その衝撃波の被害も報告され、私たちの税金でその補償が行われる。

 また、空中戦を想定した戦闘機訓練などもあり、住民無視の勝手極まりない行為が続く。とりわけ、刑務所の隣には保育所もあり、園児は怯(おび)え切っている。
 この地域は米軍の訓練空域に設定され、隣接して低空飛行訓練コースも設定されている。基地ではないが、日本政府が訓練を事実上容認し協力している。アメリカ国内では厳しい規制を受け、自由に低空飛行訓練を行えない米軍には好都合なわけだ。

 このような状況から、90年代ごろから低空飛行訓練を止めるための活動が始まった。しかし、改善されないどころか、オスプレイの強行配備でさらに増加が懸念される。それでなくとも相次ぐ米軍機事故の危険性は市民生活に重大な影響を及ぼす。
 市民ネットワークでは、まずは中国地方を拠点に講演会活動や自治体キャラバン、地域の聞き取りなどを改めて行うことにした。

 そもそも、この問題の基になっている安保・地位協定は沖縄に基地を集中させ、訓練コース下の住民に負担を強いる構造。あらためて全国から考えなければならない。

 

新田 秀樹(ピースリンク広島・呉・岩国 世話人)

 

 

日日刻刻  消費者態度指数が低下(7.30〜8.22)


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