アジア@世界
喜多幡 佳秀 訳(APWSL日本)
961号

★中国
  VW工場の派遣労働者が差別賃金に抗議

 吉林省長春のFAW・VW工場で働く派遣労働者たちが正規雇用労働者との賃金格差に抗議し、親会社のフォルクスワーゲン(VM)社と同社の労働者に支援を要請している。


 FAW・VWは中国のFAW(一汽)グループとドイツのVM社の合弁事業(1991年に設立)で、中国国内向けにVMおよびアウディの自動車を生産している。昨年11月にFAW・VW工場の派遣労働者たちは同工場での不当な労働条件について、唯一の合法的労働組合である中華全国総工会(ACFTU)に提出した。
 12月から今年1月にかけて、長春総工会の仲介によって労働者代表とFAW・VWおよび宏蓋友業(ホンシン・ヨウイエ)人力資源公司(派遣会社のーつ)の間で2回の団体交渉が行われたが、成果はなかった。
 1〜2月に同工場の千人以上の派遣労働者が地区の労働仲裁委員会に提訴したが、公式の回答はなかった。2月には裁判所に提訴したが、裁判所は労働者たちの請求を却下した。

 

 500人以上の派遣労働者が地区の人的資源社会保障省の庁舎前で抗議行動を行った。
 4月に労働者たちはメーデーの日に抗議行動を組織することを計画したが、警察からの圧力によって中止した。
 5月21日、長春国際マラソン開催時に合わせて、労働者たちは会社の門前に集まり、スローガンを唱和した。FAW・VWはこのイベントの最大スポンサーだった。

 同26日、労働者の代表である符天博(フー・ティエンボー)、王卿(ワン・シュアイ)、焚振宇(アイ・ジェンユィー)が「社会秩序を妨げるために群衆を集合させた」という容疑で拘束さ
れた。王と友は間もなく釈放されたが、符は6月7日に正式に逮捕された。
 警察は符の家族への嫌がらせをエスカレートさせた。7月に符の母はビデオを公開して、息子との面会を要求し、認められない場合は北京へ直訴に行くと訴えた。
 焚振宇は釈放後、FAW・VWのドイツにおける親会社、VWグループに対して、中国の法律に違反するだけでなくVW社自身が締結している「グローバル枠組み契約」にも違反している労働権侵害に沈黙するのをやめ、責任ある行動を取るよう促す書簡を送り、公開した。

 「中国の普通の労働者からの要求」と題するこの書簡はこう訴えている。

 「ドイツは常に人権擁護を強調し、中国の人権侵害を批判してきた国だ。今、ドイツの企業であるフォルクスワーゲンとアウディは中国の派遣労働者に対する差別的待遇について批判に曝されている。あなた方はどうして無関心のままでいられるのか?これがあなた方の人権基準なのか?」


 FAW・VW工場では3千人以上の派遣労働者が働いており、多くは勤続10年以上である。賃金は正規雇用労働者の半分以下であり、正規雇用の場合に支給される手当も適用されない。
 符天博はソーシャル・メディアを通じて、同一賃金など11項目の要求とその法的根拠について人々に知らせてきた。中国の労働契約法第63条は派遣労働者に正規雇用労働者と同一の賃金を受け取る権利を保証している。しかし、符によると彼の賃金は年6万人民元(1人民元は約16円)であり、同じ職場(はんだ付け作業)の正規雇用労働者の賃金は17万5千人民元以上である。彼の仕事は臨時でもなく補助的でもない工場の基幹的な作業であり、彼を長期にわたって派遣労働者として扱っていることは労働契約法第66条に違
反している。

(香港「チャイナ・レイバー・ブレティン」7月13日付より)

 

 

★タイ
  漁船の奴隷労働の一掃へ前進

 世界最大のマグロ加工企業、タイ・ユニオン社は児童労働を含む奴隷労働、乱獲による漁民の生活の破壊などで環境、人権団体や消費者団体からの非難を受けてきた。
 同社は7月に、グリーンピースなどの要求に応えて、同社の供給チェーンから搾取的で持続不可能なやり方を一掃することを確約した。


 グリーンピースとタイ・ユニオン社の共同プレスリリースでは、同社の事業による環境および社会への悪影響を抑制するための包括的な改革案が示された。これには、集魚装置(保護対象の魚種や稚魚も捕獲してしまう)の使用の削減(20年までに半分に)、海上での積み替えの禁止、遠洋漁船に労働条件の監視のための独立監視員を配置する、供給チェーンの中のすべての漁船に倫理基準の実施を求めること等が含まれる。両者は6ヵ月ごとに進捗状況を検討するための会合を開き、18年末に独立第三者による検討が行われる。


 これに先立って3月に大手食品企業、マースとネスレはそれぞれのグループのペットフード供給チェーンから人権侵害と違法な漁業活動を一掃するための措置、海産物の海上での積み替えの禁止などを発表した。タイ・ユニオン社は両社にペットフードの原料となるマグロを供給している。
 グリーンピースは2016年に、マグロなどの海産品の海上での積み替えによる乱獲と人権侵害に関するレポートを発表した。グリーンピースの報告を受けてマースとネスレは海上で積み替えられた海産品を供給チェーンから排除することを検討してきた。

 グリーンピースUSAの活動家のグラハム・フォーブスさんは、「ペットの飼い主たちや活動家たちは、ペットフードの供給チェーンにおける人権侵害の一掃を要求してきた。今回の発表は、ついに運動の成果が見えるようになったことを意味している」と述べている。


 タイ・ユニオン社の供給チェーンの問題は2015年に「ニューヨーク・タイムズ」紙が取り上げている。買手であるマースとネスレからの圧力やグリーンピースなどの団体からの抗議運動によって、タイ・ユニオン社は抜本的な改革を迫られてきた。
 国際運輸労連(ITF)漁業セクションのジョニー・ハンセン委員長は次のように語っている。

 「この産業は高度の搾取、労働権や人権の侵害、職場おける基本的な権利の欠如によって特徴づけられてきた。タイ・ユニオンとグリーンピースの間の協定は、この産業の全体的な持続可能性には、より優れた漁業のやり方だけでなく、労働者の待遇の改善、そして供給業者にもその基準の順守を求めることが含まれることを認識している。ITFは最終的には漁民、漁船乗組員、供給チェーンの全労働者の権利を保護するための実効的な団体協約を求める」

(「Crowdz」7月13日付、「サステイナブル・ブランド。ニュースレター」3月16日付等より)

 

 

★インド
  RCEP会合に反対、民衆サミットを開催

 ASEAN10ヵ国と中国、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、インドの16ヵ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の第19次交渉が7月24〜28日、ハイデラバードで開催された。


 RCEPは「中国主導」と言われており、より高いレベルの自由化を主張するオーストラリア、ニュージーランド、日本と、漸進的に地域経済統合を進めることを目指すASEAN・中国の思惑の違いが指摘されている。しかし、交渉が秘密裏に進められていること、TPPなどの通商協定をめぐって批判が高まっていたISDS(投資家・国家間紛争解決)条項や知的財産権保護も検討課題に組み込まれているという点で、これまでの米国・EU主導の通商協定を踏襲している。

 インドでは農民団体、労働組合と市民団体、NGOなど100以上の団体が「FTAとRCEPに反対する民衆の抵抗フォーラム」を呼びかけ、同22〜26日に民衆サミットや集会、デモ、記者会見などさまざまな行動を展開した。24日のデモには約700人が参加した。
 抵抗フォーラムに結集した団体は、RCEPを通じた関税引き下げが農業に壊滅的な打撃を与えること(インドはこれまで比較的高い関税率を維持してきたため、この面での影響は他の国より大きい)、また、知的財産権の拡大がジェネリック薬の価格上昇をもたらす(貧困層が医療を受けられなくなる)ほか、小農民の間での種子の保存、交換も制約される。


 ハイデラバードでの交渉では、秘密主義への批判を回避するために、同25日に市民団体や関係団体に開かれた「ステイクホルダー(関係者)との協議」が開催されることが明らかにされた。これに対して抵抗フォーラムに参加する団体は、「これは意味のある協議ではないし、ほとんどの関係者は排除されている」と抗議し、ボイコットすると宣言した。

 抵抗フォーラムの声明によると、交渉の経過や、検討されている文書について何の説明もなく、協議の開催についての正式の発表さえなかった。しかも「ステイクホルダーとの協議」がわずか2時間であるのに対して、同じ日に別の会場でインド産業連盟および東アジア・ビジネス評議会との協議が全日にわたって開催されることになっていた。


 抵抗フォーラムの声明や一連のアクションは連日メディアでも取り上げられ、注目を集めた。
 ハイデラバートでの交渉の進展についてはほとんど報道されておらず、公式の発表もない。RCEP交渉委員会議長のイマン・パンパギョ氏によると、年内合意の目標が「18年前半」へと延期された(「ジャカルタポスト」8月3日付)。三度目の延期である。

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