たたかいの現場から

989号

世田谷〉保育園自主運営2週間 地域支援、転園に道筋

 19年12月初旬、東京都内で労働組合による保育園の自主運営が行われた。

 

 11月29日(金)夜、閉園間近の東京都世田谷区の認可外保育園に経営者が突然現れ、倒産と即日閉園を保育スタッフに一方的に通告してきた。

 彼女たちが介護・保育ユニオンに加入し、団体交渉申し入れをしてから3日後のことだった。

 

 経営者は、倒産・閉園の通知は園の入り口に張り紙をするだけで十分だという。無責任な行動に憤りを覚えると同時に、この状況を何とかしなければいけないと保育士たちは思い、保護者や子どものために自主運営をすることを決めた。

 

 12月1日(日)、倒産と閉園、自主運営について知らせるために、数十人の保護者すべてに自分たちで電話をかけ、保育スタッフとユニオンが主催で、緊急の保護者説明会を開催した。経営者にも出席を要請したが、姿を現すことはなかった。

 

 それから2週間をかけ、ほとんどの保護者が子どもの転園先を見つけることができたとの報告を受けて、自主運営は無事終了した。

 

 保育スタッフは以前から賃金不払いの状態にあり、ただでさえ生活が苦しいのに、「自主運営はボランティアでもいい」として臨んだ。

 SNSや新聞を通じて、自主運営中の人件費や備品・消耗品費を賄うための支援を呼び掛けたところ、多くの人が寄付に応じてくれ、当面の間の人件費等を支払えるだけの資金が集まった。

 多くの保護者も寄付で支えてくれ、食べ物の差し入れや泊り込みのための寝袋貸出などでも支援してくれた。

 安全で平穏な保育ができるように、労働組合のメンバーが泊り込んでの警備に当たった。

 

 今回、こうした「突然閉園」の危機に際して、保育園の自主運営にあたって、現場の保育スタッフの心意気はもちろん、保護者、そして保育園の自主運営に共感した多くの市民の協力・支援がとても大きな役割を果たした。

 また、今回の活動を通じて、経営者に頼らなくても自分たちの力を発揮することのできる労働組合の意義を世の中に広く知ってもらうことができたのではないかと思う。

三浦 かおり(介護・保育ユニオン)

 

日本棋院〉ハラスメント防止で協定 違反の管理者を処分

 全国一般東京南部では、2018年春闘で「ハラスメント防止」キャンペーンを各職場に呼びかけた。

 日本棋院職員労組(以下、職員労組)でのキャンペーンを紹介したい。

 

 人事考課制度に関するアンケートやヒアリングから、複数の組合員が特定の管理者によるパワハラ・セクハラの被害を受けていることが判明した。

 被害者の告発を受けた執行部は「パワハラ・セクハラに関する意見書」を経営側に提出。春闘の第1要求に「ハラスメントの解決および対策についての要求」を盛り込み、交渉を始めた。

 

 経営側もハラスメントはあってはいけないという立場から「ハラスメント防止に取り組む」ことを労使協定した。就業規則にハラスメントに関連する項目を加えることも約束した。

 

 つぎに、全国一般なんぶと職員労組の連名で、パワハラの告発と当該組合員のヒアリングで明らかになった同管理者のコンプライアンス違反について、経営側に速やかな事態の究明及び対策を要請した。

 被害組合員のヒアリングの際には労働組合の立ち合いを認めること、手続き進捗についての報告も求めた。

 

 約1年かかったが、19年11月、日本棋院は、管理者のハラスメントとコンプライアンス違反を認定し、管理者への処分を社内に掲示した。

 ハラスメントのない職場環境改善にむかう一歩になったと思う。

 

中島 由美子(全国一般労働組合東京南部執行委員長)

 

山陽新聞〉組合差別断罪の県労委命令 会社が団交で受け入れ表明

 自由な言論を保障しなければならない新聞社が、会社の方針に異論を唱える労働者に「見せしめ人事」を働く、人権の守り手であるべき新聞社が社内で働く者の人権を侵害する―。

 新聞社としてあるまじき、こうした山陽新聞社の姿勢が岡山県労働委員会によって断罪された。

 

 岡山県労委は19年11月29日、山陽新聞社が昨年5月、新印刷工場に第二組合の組合員をすべて希望通り出向させる一方、印刷部門の別会社化に反対する山陽新聞労働組合の運動方針を理由に、40年印刷一筋で働いていた田淵信吾委員長と加賀光夫副委員長を新印刷工場に出向させず編集局工程管理部に異職種配転したのは、労働組合法第7条第1号(不利益取扱い)、同第3号(支配介入)に該当する不当労働行為であると認定した。

 

 県労委命令は、「山労(注:山陽新聞労働組合の略称)の組合方針及びこれに基づく正当な組合活動を理由に田淵組合員らのみを差別的に取り扱ったものであり、山陽新聞社が不当労働行為意思をもって本件異動等を行った」と判断した。

 

 また、2人を新印刷工場に出向させなかったことを、第二組合員への「見せしめ人事」とし、「かかる人事を行うことは正当な組合活動を阻害し、さらに、山労組合員の組合活動意思を委縮させ山労の組合活動を抑制することにより山労の弱体化を図るものである」と認定。

 「長年にわたり従事した仕事に対する誇りを傷つけられたと評価できる」と人権
侵害も明確に認めた。

 

 県労委は、山陽新聞社に対し、2人の編集局工程管理部への異動を取り消し、新印刷工場に出向させて、他の労働者と差別することなく処遇するよう命令、さらに不当労働行為を繰り返さないとの誓約書を組合に手交するよう求めている。

 

 組合は、岡山県労委命令を受けて、12月12日団交を持った。
 山陽新聞社は、この席で岡山県労委命令を受け入れることを表明した。これで命令が確定する。

 ただし、争議が解決したわけではない。組合は、今後、2人の人権を侵害したことに対する謝罪などを求めて全面解決交渉を要求していく。

藤井 正人(山陽新聞労働組合書記長)

 

関生弾圧〉憲法28条の原則守れ 労働法学者が共同声明

 去る12月9日、関西生コン事件につき、「組合活動に対する信じがたい刑事弾圧を見過ごすことはできない」と題された「労働法学会有志声明」が発表された。

 10名を超える代表理事経験者をふくむ78名の労働法研究者の異例の声明である。

 

 なぜ、私たち労働法研究者が、関西生コン事件に学会有志声明を発したのか。

 連帯労組(全日本建設運輸連帯労働組合)の関生支部(関西地区生コン支部)の組合活動が刑事犯罪として起訴された関西生コン事件は、戦後最大規模の労働刑事事件である。加えて、共謀罪適用の最初の事案にされるかもしれない事件である。

 しかし、この事件では、労働組合を組織し活動することは、憲法28条と労働組合法によって認められた基本的な権利である、という根本原則が忘れ去られている。

 

 労働組合活動は、さまざまに、一般社会のルールと衝突する。ストライキがその代表例である。

 合意した労働条件で働くという約束をしながら、要求を掲げて、集団で、就労を拒否する。
 しかし、ストライキの権利が認められれば、一般社会では責任を間われる民事責任(契約解除や損害賠償責任)や刑事責任(犯罪としての責任)を問われない。

 

 関生支部は、法律が認める労働組合である。そうであれば、関生支部の組合活動が、労働法が認める正当な行為かどうかが、まず検討されなければならない。

 この事件では、この基本的なルールが無視され、突然、数年前の組合活動が刑事事件とし立件されている。

 

 もちろん、違法な組合活動と評価されれば、使用者から民事責任を問われ、国家から刑事責任も問われる。私たちは、これを否定しない。

 関西生コン支部の組合活動が正当であるとの結論にもとついて、私たちは声明を発したのではない。

 

 労働基本権保障の原理と原則にたち関生支部の組合活動の正当性を判断すべきであること、そして、労働基本権保障のもと警察と検察は労働紛争への介入には謙抑でなければならないこと、この二つを私たちは主張している。

 声明全文と賛同者は、旬報社HPに掲載されている。

 

深谷 信夫(茨城大学名誉教授)

 

福島原発〉過労死事件での団交要求 いわきオールが警察通報

 19年11月30日、いわき自由労組は福島原発構内で18年10月26日に過労死し、労災認定をされている猪狩忠昭さんの事件で雇用主であるいわきオールに対し「①労災死の件、②労基法違反の件」を議題とした団体交渉の開催、遺族との直接面談による「説明責任」を果たすことの申し入れ行動を行った。

 

 猪狩忠昭さんは福島第一原発構内で放射能汚染のため構外には持ち出せない工事車両等の整備の仕事に就き、死亡する前の何ヵ月かは月100時間を超える残業を余儀なくされていた。

 強いていたのはとりもなおさず雇用主のいわきオールだ。東電からの委託を受けていた宇徳、現場での救急体制、発注者の立場である東電も責任を免れない。

 

 申し入れ行動参加者は20名弱、申し入れ書を持って会社内に行ったのは4、5名。

 会社社長は留守で昼には戻るとの出社していた社員の返答だったので、馬目社長の帰りを待ったが、一向に戻らないので再確認すると、社長に連絡したら戻らない
との返事。そこで申し入れ書を社員に託し社前での宣伝を続けた。

 すると現れたのは4台のバトカーと普通車1台、警察官11名。警察に通報したようだ。

 こうした対応は許されるものではなく、いわきオールの責任を今後も追及していく。

 

 行動後は小名浜公民館で「福島第一原発過労死を許さない!いわきオール・東京電力・宇徳は遺族に謝罪しろ!裁判報告集会」を開催。

 このかんの行動報告、斉藤弁護士、霜越弁護士からの裁判の経過と争点解説、遺族からのあいさつを受けた。

 特別報告として東京労働安全センターの飯田勝泰さんから「ベトナム人実習生除染労働問題」について講演した。

 

(編集部)

 

ハラスメント〉現場の声をパブコメに 大作戦の緊急集会

 労働施策総合推進法に事業主のパワハラ防止措置義務が設けられたことを受けて、労働政策審議会雇用環境・均等分科会において指針が作成されている。
 しかし、パブリックコメントに付された指針案には大きな問題がある。

 日本労働弁護団は19年12月10日、連合会館にて、「みんなのパブコメ大作戦」として緊急集会を開催した。

 

 集会では、日本労働弁護団事務局次長の市橋耕太弁護士が、同日に発表した日本労働弁護団指針の問題点を報告。

 パワハラの定義である「職場」を「業務を遂行する場所」、「優越的な関係」が「抵抗または拒絶できない蓋然性が高い関係」と限定されるなど、そもそもパワハラの範囲が極めて狭く定められていること、「該当しない例」に「使用者の弁解カタログ」ともいえるような不適切な例が掲載されていることを説明した。

 

 労働政策審議会で労働者委員を務める日本労働組合総連合会総合政策推進局総合局長の井上久美枝さんは、この指針でよいとは思っていない、引き続き厚労省に訴えていきたいと支援を求めた。

 

 ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗は、ILOのハラスメント禁止条約と比べて現在の指針案は残念な内容で、これでは条約を批准できないと語った。

 

 LGBT法連合会共同代表の小田瑠衣さんは、性的指向・性自認に関するハラスメントについて、指針案には個別例としてわずかな記載があるに留まり、全体的な対策になっていないと指摘した。

 

 日本俳優連合国際事業部長の森崎めぐみさんは、指針案でフリーランスに対するハラスメント対策が「望ましい」とされるに留まっていることを受け、深刻なフリーランスに対するハラスメントの実態を踏まえた対策の必要性を訴えた。

 

 このほか、KuToo運動に取り組む石川優実さん、移住者と連帯するネットワークの鳥井一平さん、DPI女性障害者ネットワークの佐々木貞子さん、(株)キュカの片山玲文さん、東京労働安全衛生センターの天野理さんなどから問題提起があった。

 

新村 響子(弁護士)

 

JAL争議〉争議解決の決断迫りJAL本社前に650人

 不当解雇争議の解決があるかのように見せかけたのが18年の事だったが、JAL経営陣は全く誠意のある対応を見せず、1年以上が経過した。こうした対応を改めさせ、19年年内解決を迫るため原告団は9月から連日の本社前座り込みを展開。12月9日夜、支援共闘会議などが呼びかけ本社前での大集会を開催した。
 寒い中650人が結集しJALに早期の争議解決を迫った。

 

瀧 秀樹(労働情報事務局長)

 

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